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初恋は最強の剣!~公爵令嬢に恋した平民は彼女の難題をすべて乗り越える~  作者: 涙目
第五章 望み編

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第六話 涙

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 卒業式の日。


 空はどこまでも青かった。

 講堂には卒業生達が集まり、最後の式典が静かに進んでいく。


 名前が呼ばれる。

 証書を受け取る。


 それだけのことなのに。

 終わりが近付いていることを嫌でも実感させられた。


 リリアナの視線は何度も前方へ向かう。


 そこにはレオがいた。

 昔と変わらない背中。


 いや。

 変わった。


 背も伸びた。

 強くなった。

 立場も変わった。


 けれど。

 あの背中を追い掛けていたことだけは変わらなかった。


 式が終わる。


 友人達が笑い合う。

 別れを惜しむ声が広がる。


 ルイーゼが涙ぐみながら抱き付いてきて、アレクシスが照れ臭そうに頭を掻いている。


 そんな騒がしさを抜けて。

 リリアナは学院の裏庭へ向かった。


 春の風が吹いている。

 木々が揺れている。


 ここも変わらない。


「お待たせしました」


 後ろから声がした。

 振り返る。


 レオが立っていた。


 正装姿だった。

 王城で見た時よりもずっと近い。


 いつものレオだ。


「遅いわ」


「申し訳ありません」


 いつもの返事。

 昔から全く変わらない。

 少しだけ笑ってしまう。


 二人の間に静かな時間が流れた。


 聞こえるのは風の音だけ。


 言わなくてはいけないことがある。

 分かっている。


 ずっと前から。


「卒業ね」


「はい」


「終わったわね」


「終わりました」


 もう保留にする理由はない。


 『卒業まで待ちなさい』


 そう言ったのは自分だ。


 だから。

 今度は自分が答えなければならない。


 リリアナは大きく息を吸った。


「私、ずっと勘違いしてたの」


 レオは黙って聞いている。


「追い掛けられているんだと思ってた」


 冒険者になった時も。

 学院へ来た時も。

 首席を取った時も。


 全部。


 ずっと。

 自分が前にいて。

 レオが追い掛けてくるのだと思っていた。


 けれど違った。


「気付いたら」


 少し笑う。


 涙が滲んだ。


「私の方が追い掛けてた」


 レオの目が少しだけ見開かれる。


「王家なんて嫌だった」


「王女殿下も嫌だった」


「遠くへ行くのも嫌だった」


 言葉が止まらない。


 今まで認めたくなかった気持ちが溢れてくる。


「だから」


 まっすぐレオを見る。


 逃げない。


 最後まで。



「あなたと結婚してあげる」



 静寂。


 風だけが吹く。


 返事はなかった。


 レオは立ち尽くしたまま動かない。


「……レオ?」


 不思議に思って顔を見る。



 そこで初めて気付いた。



 泣いていた。



 大粒の涙が頬を伝っている。


 本人も気付いていない。


 ただ呆然と立っている。


 リリアナは目を見開いた。


 初めて見た。

 この人が泣いているところなんて。


 どれだけ酷い怪我をしても。

 どれだけ理不尽な課題でも。

 どれだけ苦しくても。



 泣かなかったのに。



「ちょっと……」


 言葉を掛けた瞬間。


 レオが一歩踏み出した。


 また一歩。


 そして。


 何も言わず。



 強く抱き締めた。



 言葉はない。


 本当に何もない。


 ただ腕に力が込められている。


 震えている。


 肩も。


 呼吸も。


 全部。



 十年以上。


 走り続けた。


 初めて出会った時から。


 ただ一つだけを目指して。



 だから。


 今さら気付いた。



 この人はずっと怖かったのだ。


 届かなかったらどうしようと。


 認められなかったらどうしようと。


 それでも走り続けていたのだ。


「……馬鹿」


 小さく呟く。


 返事はない。


 抱き締める力が少しだけ強くなった。


 それが答えだった。



 リリアナはそっと腕を伸ばす。


 初めて自分から。


 レオの背中へ手を回した。



「ありがとう」



 その言葉を聞いた瞬間。


 レオの肩が大きく震えた。


 また涙が零れる。


 それでも何も言わない。


 ただ抱き締めている。



 春の風が吹く。


 学院の木々が揺れる。


 長かった。


 本当に。

 長かった。


 けれど。


 ようやくだ。


 ようやく終わった。


 そして。

 これから始まるのだと。


 リリアナは静かに目を閉じた。


挿絵(By みてみん)

お読み頂き、ありがとうございます。

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