第四話 レオの望み
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
国王の言葉が会場に響く。
「望むのであれば王女との婚姻も認めよう」
静寂だった。
誰も言葉を発しない。
貴族達は息を呑み。
王女は静かにレオを見つめ。
公爵は険しい顔をしている。
リリアナは何も考えられなかった。
頭が真っ白だった。
王女。
婚姻。
王家。
その言葉だけが何度も頭の中を回る。
断れるわけがない。
そんなもの。
断る理由がない。
王家だ。
公爵家ですら及ばない。
誰だって望む。
そう思った。
その時だった。
「お断りします」
即答だった。
あまりにも。
あっさりと。
会場の空気が凍り付く。
国王ですら目を瞬かせた。
リリアナも固まる。
何を言ったのか理解できなかった。
「ほう?」
国王が面白そうに笑う。
「理由を聞こう」
レオは迷わなかった。
考える時間すら必要なかった。
最初から答えが決まっていたみたいに。
「私が望むものは昔から一つだからです」
国王が笑う。
「王女より大切なものがあると?」
「あります」
即答だった。
再び会場がざわつく。
王女も興味深そうに見ている。
リリアナだけが何も言えない。
胸が苦しい。
逃げ出したい。
なのに目を逸らせない。
レオがこちらを見たからだ。
真っ直ぐ。
ずっと。
最初からそうだったように。
レオはリリアナだけを見る。
「私が望むのは王家ではありません」
静かだった。
なのに会場の誰よりもはっきり聞こえた。
「爵位でもありません」
「名誉でもありません」
そして。
一呼吸。
たったそれだけの間。
リリアナには永遠みたいに感じられた。
「私が望むのは――」
会場中の視線が集まる。
レオは笑った。
昔。
無茶な課題を達成した時と同じ顔で。
「リリアナだけです」
世界が止まった。
リリアナは息を忘れる。
心臓が大きく鳴る。
名前。
初めてだった。
初めて出会った時から。
学院に入ってからも。
婚約者になってからも。
ずっと。
ずっと。
お嬢様だった。
なのに。
今だけ。
初めて。
名前を呼んだ。
顔が熱い。
何も言えない。
言葉が出てこない。
そして。
一拍遅れて。
「はっはっはっはっは!」
国王が爆笑した。
遠慮なく。
豪快に。
腹を抱えて。
「なるほど!」
「そういうことか!」
会場にも笑いが広がる。
王女まで肩を震わせていた。
「負けましたわ」
王女が小さく微笑む。
「そこまで言われてしまっては」
レオは深く頭を下げた。
公爵が額を押さえる。
長い。
本当に長いため息。
それからゆっくり立ち上がった。
「まったく……」
呆れたような声だった。
けれど少しだけ笑っている。
「大変な男に娘を盗られたな」
国王が父に視線を向けて言う。
会場から再び笑いが起きた。
リリアナは真っ赤なまま俯く。
何も言えない。
頭の中も真っ白だった。
ただ一つだけ。
はっきり分かることがあった。
もう。
どこにも行かない。
この人は。
最初から最後まで。
そのためだけに走ってきたのだから。
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