第三話 王城へ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
表彰式当日。
朝から屋敷は慌ただしかった。
使用人達が走り回り、馬車の準備が進められている。
リリアナは鏡の前に座っていた。
「お嬢様」
エミリーが髪を整える。
「緊張されていますか?」
「してないわ」
即答した。
だが鏡の中の自分は少し強張っている。
エミリーは何も言わなかった。
ただ少しだけ笑った。
***
王城は大きかった。
何度か来たことはある。
それでも今日は違った。
門をくぐる貴族達。
王家の騎士達。
見たこともないほど豪華な装飾。
そして。
国中から集まった有力者達。
「すごいですわね……」
ルイーゼが思わず声を漏らす。
アレクシスも珍しく大人しい。
「場違いな気がしてきた」
「あなたは最初から場違いでしょう」
「ひどくね?」
そんなやり取りに少しだけ肩の力が抜けた。
***
会場の入口で足が止まる。
視線の先。
そこにレオがいた。
黒を基調とした正装。
見慣れない姿だった。
背筋を伸ばし、王城の役人と話している。
いつもの学院の制服ではない。
木剣を振っている少年でもない。
気付けば見つめていた。
「お嬢様?」
レオがこちらに気付く。
「……似合ってるわね」
それが精一杯だった。
レオは少し困ったように笑う。
「ありがとうございます」
それだけ。
いつも通りだった。
なのに妙に安心した。
***
開会まで少し時間があった。
貴族達が談笑している。
その中でリリアナは何度もレオを探していた。
そして見つけるたびに安心していた。
自分でも意味が分からない。
少し視界から消えただけで気になる。
誰かと話しているだけで落ち着かない。
馬鹿みたいだった。
***
視線を移す。
王族席。
そこには王女の姿もあった。
年齢はレオとそれほど変わらない。
美しく、気品がある。
そして。
何かを探すように会場を見渡していた。
やがて視線が止まる。
レオだった。
王女は小さく微笑む。
それを見た瞬間。
リリアナの胸が嫌な音を立てた。
「……何よ」
誰にも聞こえない声だった。
自分でも理由が分からない。
ただ面白くなかった。
***
会場へ入るよう案内が始まる。
中央には長い赤絨毯が敷かれていた。
その先に玉座。
国王が座る場所。
貴族達が次々と席へ着いていく。
リリアナも公爵の隣へ座った。
「お父様」
「なんだ」
「王女殿下は」
そこまで言って言葉が止まる。
公爵が横目で見る。
「なんでもありません」
父は小さくため息を吐いた。
何も言わない。
それが余計に気に入らなかった。
***
やがて。
ラッパの音が響く。
会場全体が静まり返った。
国王が入場する。
全員が立ち上がる。
重苦しい空気。
厳かな雰囲気。
そして。
赤絨毯の前に立つレオ。
リリアナは無意識に息を止めた。
表彰が始まる。
その先に何が待っているのか。
まだ誰も知らなかった。
***
国王が壇上へ進む。
会場の全員が頭を下げた。
静寂。
数百人はいるはずなのに、誰一人声を出さない。
国王は玉座へ腰を下ろした。
「楽にせよ」
その一言で空気が少しだけ緩む。
だが緊張は消えない。
リリアナは無意識に手を握り締めていた。
視線の先。
赤い絨毯の上にはレオが立っている。
背筋は真っ直ぐ。
緊張している様子もない。
昔と変わらない。
どれだけ大きな舞台でも。
やることは同じなのだろう。
「レオ・オルスタッド」
国王の声が響く。
「前へ」
「はい」
レオが進み出る。
会場中の視線が集まった。
貴族達。
騎士達。
王族達。
その全てを受けながら。
レオは何も変わらない。
「聞いている」
国王が笑う。
「面白い男だそうだな」
「恐れ入ります」
「褒めておる」
会場から小さな笑い声が漏れた。
国王は続ける。
「商人達をまとめ、流通を整えた」
「騎士団の補給問題も解決した」
「若くしてよく成し遂げた」
リリアナは驚いていた。
父は何も教えてくれなかった。
レオも何も話さなかった。
だから知らなかった。
思っていた以上に。
大きなことをしていたことを。
国王が立ち上がる。
「よって其方を表彰する」
会場から拍手が起こる。
大きな拍手だった。
レオは頭を下げる。
それだけ。
自慢することもなければ誇ることもない。
淡々としている。
いつも通りだ。
だから。
リリアナは少しだけ誇らしかった。
***
表彰が終わる。
本来ならここで終わりだった。
だが。
国王は席へ戻らなかった。
「さて」
その一言で会場が静まる。
国王が笑う。
「褒美の話をしよう」
貴族達がざわめいた。
リリアナも息を呑む。
まだあるのか。
「望みを言え」
国王は楽しそうだった。
「余で叶えられることであれば叶えよう」
会場中の視線がレオへ向かう。
爵位。
領地。
金。
誰もがそう思った。
リリアナもそう思った。
だが。
嫌な予感がした。
胸がざわつく。
「さらに」
国王が続ける。
「望むのであれば」
国王の隣。
王女へ視線を向ける。
「王女との婚姻も認めよう」
会場が揺れた。
どよめき。
驚き。
息を呑む音。
一瞬で広がる。
リリアナの心臓が止まった。
王女。
婚姻。
王家。
頭の中が真っ白になる。
父を見る。
父も険しい顔をしていた。
その隣で。
レオだけが静かだった。
いつもの顔だった。
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