第二話 王家の噂
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王城から正式な招待状が届いてから数日。
学院でも王都でも、その話ばかりになっていた。
「聞きました?」
昼休み。
令嬢達が楽しそうに話している。
「王家がかなり期待しているそうですわ」
「当然ですわよ。あの年齢であれだけの成果を出したのですもの」
リリアナは本を開いたまま耳だけを傾けていた。
本当は読みたいわけではない。
ただ会話に参加したくなかった。
「表彰だけでは終わらないかもしれませんわね」
「それはそうでしょう」
「王城へ招く理由がありますもの」
ページをめくる手が止まる。
嫌な言葉だった。
「どういう意味?」
気付けば口を挟んでいた。
令嬢達が驚いた顔をする。
「リリアナ様」
「いえ、深い意味ではありませんの」
だが少し楽しそうに笑う。
「有能な人材は王家も欲しがりますでしょう?」
胸が少し痛んだ。
それ以上は聞きたくなかった。
リリアナは静かに本を閉じた。
***
放課後。
校門の前には王家の馬車が停まっていた。
最近は珍しくもない光景だ。
レオは教師へ一礼し、そのまま馬車へ向かう。
「忙しそうですね」
隣にいたルイーゼが呟く。
「そうね」
「なんだか遠い人みたいですわ」
リリアナは答えられなかった。
その言葉を。
最近ずっと考えていたから。
レオが馬車へ乗り込む。
扉が閉まる。
走り去る姿を見送る。
昔は毎日訓練場にいた。
放課後になれば木剣を振っていた。
気付けば隣にいた。
それが当たり前だった。
今は違う。
王都へ行く。
王城へ呼ばれる。
貴族達と会う。
自分の知らない場所で。
知らない人達と。
話をしている。
少しだけ。
本当に少しだけ。
置いていかれそうな気がした。
***
その日の夜。
食後。
リリアナは父の執務室を訪れた。
「どうした」
「王家は本気なのですか」
公爵はペンを置いた。
「何の話だ」
「レオのことです」
短い沈黙。
父は椅子にもたれた。
「本気だろうな」
予想していた答えだった。
それなのに胸が苦しくなる。
「王家直属の話ですか」
「ああ」
「断れるのですか」
公爵は少しだけ目を細めた。
「本人が望まなければな」
その返答に安心するべきだった。
なのに安心できない。
「お前はどうして欲しい」
突然そう聞かれた。
リリアナは言葉を失う。
どうして欲しいか。
そんなの。
決まっている。
でも。
口にしたら終わりな気がした。
「……分かりません」
結局そう答えた。
父は何も言わなかった。
***
部屋へ戻る。
机の上には青いペンダント。
自然と手が伸びる。
指先で撫でる。
冷たい感触。
誕生日の日。
レオがくれたもの。
あの時はただ嬉しかった。
何も考えていなかった。
今は違う。
考えてしまう。
もし王家へ行ったら。
もし王都で暮らすことになったら。
もし。
自分の知らない場所へ行ってしまったら。
「……嫌ね」
ぽつりと零れた。
誰も聞いていない。
聞かれなくて良かったと思った。
窓の外には王都の灯りが見える。
その中心に王城がある。
リリアナはペンダントを握りしめた。
王家だろうと。
王城だろうと。
どれだけ大きな場所だろうと。
ただ一つだけ。
レオが遠くへ行ってしまうのは嫌だった。
お読み頂き、ありがとうございます。




