第一話 落ち着かない
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王家からの招待状が届いた。
国家への功績を称え、王城にて表彰を行う。
たったそれだけの内容だった。
それなのにリリアナは三度も同じ文章を読み返していた。
「お嬢様」
エミリーが呆れたように声を掛ける。
「何度も読んでも内容は変わりませんよ」
「分かっているわ」
そう答えながら、もう一度目を通してしまう。
自分でも馬鹿だと思った。
表彰されるのは自分ではない。
レオだ。
喜ぶべきことだ。
誰よりも努力していたのだから。
それなのに胸の奥が落ち着かなかった。
***
翌日。
学院の教室は朝から騒がしかった。
「王城だぞ!」
アレクシスが机を叩く。
「すげぇじゃねぇか!」
「そうですわ! 普通は一生縁がありませんのに!」
ルイーゼも興奮している。
教室中が祝福ムードだった。
その中心にいるレオだけがいつも通りだった。
「大変ね」
リリアナが声を掛ける。
レオが顔を上げる。
「何がですか?」
「その反応よ」
思わず笑ってしまう。
「王城に呼ばれているのよ?」
「そうですね」
「それだけ?」
「それだけです」
本当にそう思っている顔だった。
昔から変わらない。
冒険者になった時も。
学院首席を取った時も。
剣術大会で優勝した時も。
達成したことではなく、その先しか見ていなかった。
今だからこそわかる。
だから少しだけ不安になる。
今度はどこへ行こうとしているのだろうと。
***
放課後。
レオはいつものように立ち上がった。
「失礼します」
教室を出ていく。
リリアナは窓際へ歩いた。
校門の前には馬車が停まっている。
レオが乗り込む。
扉が閉まる。
馬車は王都へ向かって走り去った。
気付けば見えなくなるまで見送っていた。
「最近、本当に見送るようになりましたわね」
隣でルイーゼが言う。
リリアナは肩を震わせた。
「何のこと?」
「そういうところです」
全く誤魔化せていないらしい。
***
その夜。
食堂には父もいた。
「表彰式にはお前も出席しろ」
公爵が言う。
「私もですか?」
「当然だ」
その返事はあまりにも当たり前だった。
「婚約者なのだからな」
リリアナは黙り込む。
その言葉を聞くたびに少しだけ安心する自分がいた。
婚約者。
まだそう呼んでくれている。
まだ隣にいる。
それなのに。
王家という言葉が頭から離れない。
***
自室。
窓の外には星空が広がっていた。
机の上には青いペンダント。
手に取る。
冷たい感触が掌に広がる。
「馬鹿みたい」
小さく呟く。
王家に認められることは名誉だ。
誉れだ。
喜ばしいことだ。
分かっている。
分かっているのに。
もし。
王家が本当にレオを望んだら。
もし。
もっと高い場所へ行けると言われたら。
もし。
自分より良い未来があると言われたら。
レオはどうするのだろう。
考えたくないのに。
考えてしまう。
リリアナはペンダントを握り締めた。
窓の向こうには王都の灯りが見える。
そのどこかで。
今もレオは走っている。
昔と同じように。
ただひたすら前へ。
だからこそ。
少しだけ怖かった。
その先に、自分がいなくなることが。




