第十七話 やりすぎだ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
卒業まで残り半年。
季節は少しずつ変わり始めていた。
「合格だ」
父の言葉だった。
リリアナは思わず顔を上げる。
「本当ですか?」
「何度も言わせるな」
机の上には大量の資料。
領地運営改善案。
税収予測。
流通整備計画。
何度も書き直した。
何度も否定された。
その全てを終えて。
ようやく。
課題を達成した。
胸の奥から喜びが込み上げる。
この半年。
初めて味わった達成感だった。
「ありがとうございます!」
気付けば頭を下げていた。
父は珍しく笑った。
「よくやった」
その言葉だけで十分だった。
執務室を飛び出す。
廊下を走る。
らしくない。
公爵令嬢らしくない。
でも止まれなかった。
報告したい人がいた。
一人だけ。
***
学院中庭。
そこにレオがいた。
珍しく学院に残っている。
「レオ!」
呼ぶ。
レオが振り返る。
「お嬢様?」
息を切らしたリリアナを見て目を丸くした。
「終わったの!」
「何がですか?」
「課題よ!」
レオが理解する。
そして。
本当に嬉しそうに笑った。
「おめでとうございます」
その顔を見た瞬間。
なぜだろう。
半年間の苦労が報われた気がした。
「ありがとう」
笑う。
自然に。
すると。
レオが少し困ったような顔をした。
「実は」
「なに?」
「俺もです」
一瞬意味が分からなかった。
「……え?」
「課題を達成しました」
リリアナの思考が止まる。
そして。
「本当に!?」
「はい」
次の瞬間。
二人とも笑っていた。
声を上げて。
馬鹿みたいに。
ただ嬉しくて。
ただ喜んで。
昔なら考えられなかった。
課題を達成したのはレオ。
驚くのは私。
それだけだった。
今は違う。
二人とも達成した。
二人とも前に進んだ。
だから。
こんなに嬉しい。
「お父様に報告しましょう!」
リリアナが言う。
「そうですね」
二人で歩く。
***
公爵邸。
自然と足取りが軽くなる。
これで終わりだと思った。
これで認められると思った。
これで。
ようやく隣に立てるのだと。
***
執務室。
父は既に待っていた。
だが。
表情がおかしい。
喜んでいない。
むしろ。
険しい。
それに気付いた瞬間。
嫌な予感がした。
「お父様?」
父は深くため息を吐いた。
そして。
一枚の書類を机へ置く。
「やりすぎだ」
レオへ向けられた言葉だった。
レオが首を傾げる。
「そうでしょうか」
「そうだ」
即答だった。
父が額を押さえる。
「私は功績を立てろとは言った」
「国家を動かせとは言っていない」
リリアナは意味が分からなかった。
「どういうことですか」
父は何も言わず。
書類をこちらへ向けた。
視線を落とす。
王家の紋章。
公式文書。
その下に書かれていた文章を読む。
そして。
リリアナの顔から笑みが消えた。
『レオ・オルスタッドを王家直属として迎え入れることを提案する』
静寂。
誰も喋らない。
風の音だけが聞こえる。
リリアナはゆっくり顔を上げた。
父を見る。
レオを見る。
もう一度書類を見る。
意味は分かる。
分かるからこそ。
信じられなかった。
「王家が……」
喉が渇く。
「レオを欲しがっているの?」
公爵は静かに頷いた。
「そういうことだ」
その瞬間。
初めて。
リリアナは理解した。
レオが挑んでいた課題が。
自分が想像していたより。
遥かに大きなものだったことを。




