第十六話 隣に立つために
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
その日から。
リリアナの毎日はさらに忙しくなった。
学院。
授業。
放課後。
執務室。
帰宅後も勉強。
以前のお茶会よりずっと大変だった。
だが。
不思議と嫌ではない。
「街道の整備費用について説明しろ」
父の声。
リリアナは資料へ視線を落とす。
「現在の流通量を考えるなら西街道が優先です」
「理由は」
「商業都市との交易量が増えています」
「続けろ」
以前なら答えられなかった。
今は少し違う。
分からないなりに。
考えられるようになってきていた。
父が静かに頷く。
「前よりは良い」
その一言だけだった。
それでも嬉しかった。
***
授業が終わる。
執務室を出る。
廊下を歩きながら大きく息を吐いた。
「疲れましたか?」
声がした。
振り返る。
レオだった。
最近はよく会う。
父の仕事で出入りしているからだろう。
「疲れたわ」
「顔に出ています」
「失礼ね」
即答する。
レオが少し笑った。
その顔を見ると。
なぜかこちらまで笑ってしまう。
「今日は何をしていたの?」
聞いてから思う。
最近の私はよく質問する。
前なら聞かなかった。
待っていれば良かったから。
今は違う。
知りたい。
少しでも。
「商人の方々と話をしていました」
珍しく答えが返ってきた。
リリアナは少し驚く。
「教えてくれるの?」
「話せることだけです」
「ずるいわね」
「よく言われます」
本当に反省していない顔だった。
少しだけ腹が立つ。
少しだけ安心する。
以前のレオだ。
変わったように見えても。
全部が変わったわけではない。
二人で並んで廊下を歩く。
沈黙が続く。
でも嫌ではない。
「お嬢様」
レオが不意に口を開いた。
「なに?」
「最近頑張っていますね」
思わず足が止まる。
「見ていたの?」
「はい」
当たり前のように答える。
少し恥ずかしくなる。
父に叱られたこと。
零点を取ったこと。
何度もやり直したこと。
全部知られている気がした。
「私だって頑張るわよ」
言い返すと。
レオは真面目な顔になった。
「知っています」
その返事が予想外だった。
「だから」
レオは少しだけ笑う。
「負けられません」
胸の奥が熱くなる。
負けられない。
その言葉は。
何度も聞いてきた。
課題の度に。
無茶な目標の度に。
何度も。
何度も。
そして全部達成してきた。
だから。
リリアナも笑った。
「私もよ」
レオが目を丸くする。
「私だって負けないわ」
領地経営。
勉強。
未来。
全部。
諦めるつもりはなかった。
窓の外では夕日が沈み始めている。
少し前まで。
その背中を見上げるだけだった。
追いかけられる側だった。
課題を出す側だった。
でも今は違う。
同じ方向へ歩いている。
まだ隣ではない。
まだ届いていない。
それでも。
いつか。
その時。
胸を張って隣に立ちたいと思った。
昔のレオがそうだったように。
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