第六話 初めての敗北
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
剣術実技から三日後。
私は教室で考え込んでいた。
いや、正確には考えさせられていた。
原因は一人。
レオである。
筆記試験満点。
剣術最強。
学院二位。
そして街一番の冒険者。
ここまでならまだいい。
問題は。
「お嬢様、おはようございます」
毎朝来る。
「おはよう」
「今日は天気が良いですね」
「そうね」
毎朝話しかけてくる。
「今日も頑張ります」
「なにを?」
「課題です」
毎朝課題の話になる。
もう少し別の話題はないのだろうか。
***
すると教室の扉が開いた。
「全員席につけ」
セシリア先生だった。
生徒達が慌てて着席する。
先生は教卓へ立つと一枚の紙を掲げた。
「来月、学院剣術大会を開催する」
教室が沸いた。
歓声。
拍手。
男子生徒達が盛り上がる。
「優勝者には特別表彰が与えられる」
「おおっ!」
「さらに」
先生が続きを告げる。
「王都大会への推薦枠も得られる」
さらに盛り上がる。
私は横を見る。
レオ。
珍しく反応していた。
「お嬢様」
嫌な予感。
「なに?」
「課題達成の機会が来ました」
やっぱり。
「まだ優勝してないでしょう」
「します」
即答だった。
この人、本当にぶれない。
***
放課後。
学院の訓練場。
大会へ向けた自主練習が始まっていた。
私も見学していたのだが。
「来い!」
アレクシスの鋭い声が響く。
相手は上級生。
それも三年生だった。
だが。
五分後。
勝ったのはアレクシスだった。
歓声が上がる。
「すげぇ……」
「三年相手だぞ」
「本当に一年か?」
アレクシスは強い。
本当に強い。
実力だけなら学院でも上位だろう。
その時だった。
「レオ」
アレクシスが呼ぶ。
「少し付き合え」
再びだ。
訓練場中の視線が集まる。
レオは頷いた。
「構いません」
***
木剣が交わる。
一撃。
二撃。
三撃。
前回より長い。
アレクシスも研究してきたのだろう。
攻撃が鋭い。
だが。
それでも届かない。
レオは最小限の動きで捌いていた。
まるで先が見えているみたいに。
そして。
十五合目。
アレクシスの剣が弾かれた。
決着。
「……参った」
アレクシスが苦笑する。
完敗だった。
だけど。
前回よりずっと嬉しそうだった。
「次は勝つ」
「楽しみにしています」
レオも少し笑う。
いい関係なのかもしれない。
***
その帰り道。
私は一人で歩いていた。
護衛達は少し離れた場所。
夕暮れ。
学院の中庭。
そこで。
「あ」
見つけてしまった。
レオだった。
一人ではない。
女子生徒数人に囲まれている。
楽しそうに話していた。
「レオ君って本当に剣が強いんだね」
「そうでしょうか」
「王都大会も優勝できそう!」
「頑張ります」
「応援する!」
女子達は笑っている。
レオも穏やかに話している。
当然だ。
人気が出る要素しかない。
分かっている。
分かっているのだけれど。
何だろう。
少しだけ面白くない。
理由は分からない。
本当に。
少しだけ。
「お嬢様?」
声を掛けられた。
しまった。
レオに見つかった。
女子達もこちらを見る。
私は慌てて平静を装った。
「な、なにかしら」
「お帰りですか?」
「そうよ」
「では一緒にどうですか」
女子達が固まった。
私も固まった。
「なんで?」
「帰り道ですので」
それだけだった。
打算も下心もない。
本当に。
ただ一緒に帰りたいだけらしい。
女子達が微妙な顔になる。
私はなぜか少しだけ気分が良くなった。
なぜだろう。
「……少しだけなら」
「ありがとうございます」
レオが笑う。
私は歩き出す。
隣にレオ。
後ろに護衛。
妙な組み合わせだった。
しばらく無言が続く。
やがて。
「お嬢様」
「なに?」
「最近気付いたことがあります」
珍しい。
課題以外の話だ。
「聞いてあげるわ」
「ありがとうございます」
レオは真面目な顔で言った。
「お嬢様は褒められるのが好きですね」
私は立ち止まった。
「…………は?」
「首席候補と言われた時も」
「言われてないわ」
「試験の時も」
「レオ」
「はい」
「黙りなさい」
「分かりました」
即座に黙った。
でも。
少しだけ恥ずかしい。
少しだけ。
その横顔を見て思った。
三年前。
教会で会った時。
確かに変な子だった。
でも。
今は違う。
変な子ではない。
変な人だ。
私は小さくため息をついた。
そして。
少しだけ笑った。
お読み頂き、ありがとうございます。




