第十四話 追いつくために
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
領地経営の勉強を始めて二週間。
リリアナの日常は変わっていた。
***
朝。
学院へ行く。
授業を受ける。
放課後は帰宅。
そして執務室。
以前なら考えられなかった生活だった。
「税率を上げれば終わる話ではない」
父の声が響く。
「領民が離れる」
「商人も減る」
「結果的に税収は下がる」
リリアナは必死に手を動かした。
難しい。
本当に難しい。
剣の方が分かりやすい。
勉強の方がまだ楽だ。
数字ばかり。
人の生活ばかり。
正解が一つじゃない。
それが余計に難しかった。
だが。
不思議と嫌ではなかった。
「ここは?」
自分から質問する。
父が答える。
また質問する。
また答える。
昔なら途中で投げていた。
それでも続けている。
理由は簡単だった。
追いつきたいから。
***
夜。
ようやく解放される。
執務室を出る。
廊下を歩く。
疲れた。
本当に疲れた。
すると。
「お嬢様」
聞き慣れた声。
顔を上げる。
レオだった。
思わず立ち止まる。
「どうしてここに」
「旦那様に呼ばれました」
当然のように答える。
今ではそれも日常らしい。
少しだけ悔しかった。
私より先にいる。
私より多く知っている。
そんな気がした。
「疲れていますね」
レオが言う。
「誰のせいだと思ってるの」
思わず返していた。
レオが目を丸くする。
「俺ですか?」
「あなたよ」
即答だった。
レオは本気で困っている。
その顔が少し面白い。
「勉強始めたんでしょう?」
「知ってるの?」
「ヴァルさんから」
またヴァルだった。
全部筒抜けらしい。
「大変ですか」
聞かれる。
リリアナは少し考えた。
大変だった。
正直。
心が折れそうになる日もある。
でも。
「そうね」
小さく笑う。
「大変よ」
「でも楽しいわ」
レオが静かに笑った。
「良かったです」
それだけだった。
以前なら分からなかった。
今なら少し分かる。
課題に向かう楽しさ。
成長する楽しさ。
諦めない理由。
全部ではない。
ほんの少しだけ。
それでも。
前よりずっと近付けた気がした。
窓の外は夕暮れだった。
オレンジ色の光が差し込む。
レオは執務室へ向かう。
父との仕事があるのだろう。
また先へ進む。
でも。
今日は違った。
背中が遠く見えない。
少しだけ。
本当に少しだけ。
近付けた気がした。
「レオ」
呼び止める。
振り返る。
「はい」
リリアナは少しだけ笑った。
「私も頑張るから」
レオが一瞬だけ驚く。
そして。
前と同じように笑った。
「はい」
その返事が。
何だか少し嬉しかった。
お読み頂き、ありがとうございます。




