第十三話 初めての失敗
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
領地経営の勉強を始めて一週間。
リリアナは執務室にいた。
机の上には大量の書類。
税収報告。
収支一覧。
街道整備計画。
頭が痛くなる。
「終わりました」
父へ書類を差し出す。
クラインベルク公爵は無言で目を通した。
一枚。
また一枚。
そして。
父は静かに机へ置いた。
「零点だ」
リリアナは固まった。
「え?」
「やり直しだ」
「どこが違うんですか」
「全部だ」
即答だった。
思わず立ち上がる。
「そんなはずありません!」
「三時間も考えたんですよ!?」
「だから何だ」
父の声は冷静だった。
悔しい。
ものすごく。
必死にやった。
寝る前も。
朝も。
学院でも。
ずっと考えていた。
なのに。
零点。
「領主は頑張ったでは済まん」
父が言う。
「間違えれば領民が困る」
言葉が刺さる。
何も返せなかった。
正論だったから。
***
執務室を出る。
悔しかった。
本当に。
悔しかった。
学院では優秀だった。
成績も良い。
勉強にも自信があった。
それなのに。
何もできなかった。
教室。
いつもの席へ座る。
ため息が出た。
「どうしたんですか?」
声がした。
顔を上げる。
レオだった。
「別に」
「別にじゃない顔です」
失礼なことを言う。
でも。
否定できなかった。
「失敗しただけよ」
レオが少し考えた。
「領地経営ですか?」
思わず顔を上げる。
「どうして知ってるの」
「ヴァルさんが」
余計なことを。
後で文句を言おう。
「零点よ」
思わず言ってしまった。
言った途端に恥ずかしくなる。
何をしているのだろう。
愚痴みたいなことを。
レオへ。
だが。
レオは笑わなかった。
「良かったですね」
「は?」
リリアナは本気で固まった。
「どこがよ」
「初めてだからです」
意味が分からない。
全く。
「俺も最初は全部失敗しました」
レオはあっさり言う。
「冒険者も」
「勉強も」
「ダンスも」
「……そうなの?」
ダンスは確かにそうだった。
リズムも。
動きも。
上手くいかず。
何度も足を踏んでいた。
それでも。
一つずつ覚えていった。
今でこそ何でもできるような顔をしているが。
最初は酷かったのだろうか。
「だから大丈夫です」
何が大丈夫なのか。
そう思った。
でも。
少しだけ肩の力が抜ける。
「簡単に言うわね」
「簡単じゃありません」
真面目な顔だった。
「かなり大変でした」
それを聞いて。
少しだけ笑ってしまった。
レオも笑う。
二人の間に静かな時間が流れる。
昔と少し似ていた。
でも違う。
今は。
私も課題を抱えている。
私も壁にぶつかっている。
だから分かる。
あの頃。
レオがどれだけ大変だったのかを。
***
放課後。
執務室へ向かう。
父がこちらを見る。
「戻ってきたか」
「もう一回やります」
公爵は少しだけ目を細めた。
「そうか」
書類を受け取る。
椅子へ座る。
数字が並ぶ。
難しい。
分からない。
それでも。
今朝より少しだけ前を向けていた。
負けたくなかった。
課題にも。
そして。
あの馬鹿みたいに諦めない婚約者にも。
お読み頂き、ありがとうございます。




