第十二話 初めて望んだ課題
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌日。
リリアナは放課後になると真っ直ぐ帰宅した。
執務室。
大きな机。
壁一面の書棚。
クラインベルク公爵は既に仕事をしていた。
「来ました」
「座りなさい」
父は顔も上げない。
机の上には書類が積み上がっていた。
リリアナは席に着く。
少し緊張していた。
「まず確認する」
父が書類を閉じる。
「領地の人口を知っているか」
「おおよそなら」
「答えろ」
リリアナは答えた。
父は頷く。
「では税収は」
止まる。
知らない。
正確には知らない。
父がため息を吐いた。
「そこからだ」
その一言が少し悔しかった。
公爵令嬢として学んできた。
勉強もしている。
成績も悪くない。
なのに。
領地のことになると何も知らない。
知らなかった。
***
それから数時間。
講義は続いた。
税。
農地。
街道。
商人。
治安。
領地運営。
知らないことばかりだった。
気付けば窓の外は赤く染まっていた。
「今日はここまでだ」
リリアナは大きく息を吐く。
想像以上だった。
難しい。
本当に。
「なめていたか」
父が言う。
「少し」
正直に答えた。
父は小さく笑った。
珍しい。
「皆そうだ」
立ち上がる。
机の上の資料を見る。
数字ばかり。
頭が痛くなりそうだった。
「お父様」
「なんだ」
「レオもこういうことを?」
父は少し黙った。
そして。
「もっとだ」
そう答えた。
リリアナは言葉を失う。
もっと。
これ以上。
「王都でやっていることは遊びではない」
「そう…ですね」
知っていた。
知っていたはずだった。
でも。
実感していなかった。
***
夜。
自室へ戻る。
机へ座る。
父から渡された資料を開く。
数字だらけだった。
一ページ読む。
二ページ読む。
難しい。
眠い。
投げ出したい。
でも。
思い出す。
毎日剣を振っていた少年を。
意味が分からなくても。
結果が出なくても。
諦めなかった姿を。
リリアナは資料をめくる。
一枚。
また一枚。
少しずつ。
本当に少しずつ。
前へ進む。
窓の外では月が出ていた。
王都のどこかで。
今もレオは課題に向かっている。
それなら。
自分も進まなければならない。
追いつくためではない。
隣に立つためだ。
その考えが浮かんだ瞬間。
リリアナは小さく笑った。
「本当に面倒な人ね」
誰に向けた言葉か。
もう考えるまでもなかった。
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