第十話 同じ景色
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
次の日。
レオは朝から教室にいた。
窓際の席。
資料を読んでいる。
いつもと同じだった。
昨日。
私が引き留めたことなどなかったみたいに。
自然で。
当たり前で。
少しだけ腹が立つ。
「おはようございます」
レオが顔を上げる。
「おはよう」
また同じだ。
これだけ。
昨日はあんなに話したのに。
今日になると元通り。
本当にずるい。
***
授業が始まる。
終わる。
休み時間。
レオの席には数人の男子生徒が集まっていた。
「本当なのか?」
「だから何がですか」
「騎士団!」
聞こえてくる。
最近はそんな話ばかりだ。
私は本を読むふりをする。
耳だけはしっかり向いていた。
「まだ話せません」
またそれ。
最近のレオはそればかりだった。
「秘密主義になったな」
アレクシスが笑う。
「申し訳ありません」
「そこは否定しろよ」
教室に笑いが広がる。
私も少しだけ笑った。
昔と変わらないやり取り。
なのに。
どこか違う。
レオだけが前へ進んでいる気がする。
***
昼休み。
中庭。
ベンチに座って空を見る。
最近こういう時間が増えた。
考える時間。
そして。
考える内容は大体同じ。
「お嬢様」
顔を上げる。
エミリーだった。
「どうしました?」
「別に」
「またレオ様ですか」
即答できなかった。
それが答えだった。
エミリーが小さく笑う。
「最近は隠しませんね」
「隠してるわ」
「そうでしょうか」
全然信じていない顔だった。
***
放課後。
またレオが立ち上がる。
「失礼します」
やっぱり今日も王都らしい。
私は席を立った。
昨日ほど勢いはない。
でも。
気付けば歩いていた。
「レオ」
振り返る。
「はい」
「今日は何時に帰るの?」
聞いてから気付く。
おかしい。
こんなの。
まるで。
「分かりません」
レオは少し考えた。
「遅くなると思います」
「そう」
話は終わりだった。
何を言いたかったのか。
自分でも分からない。
「お嬢様」
不意にレオが呼ぶ。
「なに?」
「昨日はありがとうございました」
少し驚く。
「昨日?」
「引き留めてくれて」
心臓が跳ねた。
そんなことを覚えていたのか。
忘れてほしかったのに。
「別に」
視線を逸らす。
「ただの気まぐれよ」
「それでも嬉しかったです」
一瞬。
言葉を失う。
レオは本当に自然に言った。
昔からそうだ。
思ったことをそのまま言う。
だから困る。
「そう」
それしか返せなかった。
レオは一礼して歩き出す。
校門へ。
王都へ。
私の知らない場所へ。
その背中を見送る。
少し前までは。
遠いと思っていた。
手の届かない場所へ行ってしまうと。
でも昨日。
引き留めた。
今日も話した。
少しだけ。
本当に少しだけ。
距離が縮まった気がした。
夕日が中庭を赤く染めている。
リリアナは空を見上げる。
追いかけるのも悪くない。
そんなことを思った自分に。
少しだけ笑ってしまった。
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