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初恋は最強の剣!~公爵令嬢に恋した平民は彼女の難題をすべて乗り越える~  作者: 涙目
第四章 国家編

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第八話 知らない名前

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 数日後。

 リリアナは王都の侯爵邸にいた。


 いつものお茶会。

 いつもの顔ぶれ。

 いつもの退屈な時間。


「最近は大変ですわね」


 向かいの令嬢が微笑む。


「なにが?」


「婚約者の件ですわ」


 またその話だった。


 適当に相槌を打つ。

 紅茶を口に運ぶ。

 味は覚えていない。


「ですが驚きました」


「そう?」


「オルスタッド卿ですわ」


 手が止まった。


 今。

 何と言った?


「……卿?」


 令嬢達が不思議そうな顔をする。


「ご存じありませんの?」


 知らない。


 何も。

 一つも。


「最近、王都では有名ですのよ」


「商人達との共同事業とか」


「騎士団の補給問題とか」


「王城の方々とも話しているとか」


 聞いたことのない話ばかりだった。


 そして。

 聞いたことのない呼び名。


 オルスタッド卿。


 レオが。


 いつの間に。

 そんなふうに呼ばれるようになったのだろう。


***


 お茶会が終わる。


 帰りの馬車。


 リリアナはずっと黙っていた。


 エミリーも何も聞かない。


 最近はそうだった。


 私が何を考えているか。


 たぶん分かっている。


 だから聞かない。


 屋敷へ戻る。


 真っ直ぐ父の執務室へ向かった。


「入りなさい」


 父は書類から目を上げた。


「どうした」


「レオは爵位を持っているのですか」


 父が少しだけ驚いた顔をする。


「誰に聞いた」


「お茶会です」


 父は小さく息を吐いた。


「まだ正式ではない」


 それだけだった。


 でも。

 十分だった。


 正式でない。


 つまり。

 話は進んでいる。


 私の知らないところで。


 どんどん。


「どうして何も教えてくれないんですか」


 思わず口にしていた。


 父の手が止まる。


「何も知らないのは私だけです」


「……」


「レオも」


「お父様も」


「みんな知っているのに」


 父はしばらく黙っていた。


 やがて。


「知らない方がいいこともある」


「嫌です」


 即答だった。


 父が目を見開く。


 私も少し驚いた。


 こんな言い方をしたのは久しぶりだった。


「私は知りたいです」


 その言葉だけは本心だった。


 父は何も言わなかった。


 長い沈黙。


 そして。


「変わったな」


 小さく呟いた。


「え?」


「昔のお前は聞かなかった」


 リリアナは何も答えられなかった。


 その通りだったから。


 昔の私は。

 待っていた。


 課題を出して。

 レオが達成するのを。


 それだけだった。


 今は違う。


 知りたい。


 追いかけたい。


 置いていかれたくない。


 そんなことばかり考えている。


***


 部屋へ戻る。


 机の上のペンダントを手に取る。


 青い光が揺れる。


「何してるのよ」


 また同じ言葉が零れる。


 だが今回は少し違った。


 知りたい。

 本当に知りたい。


 どこへ向かっているのか。

 何を目指しているのか。

 なぜそこまで必死なのか。


 そして。

 その場所に。


 私も立てるのかを。


 窓の外では王都の灯りが輝いていた。


 その夜。


 リリアナは初めて思った。


 待つだけでは駄目なのかもしれないと。

お読み頂き、ありがとうございます。

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