第七話 知りたい
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌日。
リリアナは珍しく早く学院へ来ていた。
理由は自分でも分からない。
分からないことにしていた。
教室へ入る。
まだ人は少ない。
窓際の席。
レオは既に来ていた。
本を読んでいる。
以前からそうだったはずなのに。
今は少し違って見える。
近付きたい。
でも何を話せばいいのか分からない。
結局。
「おはよう」
それだけだった。
レオが顔を上げる。
「おはようございます」
少しだけ笑う。
その笑顔を見て。
胸の奥が温かくなる。
そして。
少しだけ悔しくなった。
たったそれだけで嬉しくなる自分に。
***
授業が始まる。
終わる。
昼休み。
レオはまた書類を読んでいた。
見たこともない資料。
地図。
数字。
領地名。
何かを調べている。
「それ」
気付けば声を掛けていた。
レオが顔を上げる。
「はい?」
「何を見ているの?」
少しだけ。
本当に少しだけ。
期待した。
今度こそ教えてくれるかもしれないと。
だが。
「仕事です」
その返事だった。
頭が痛くなる。
「仕事なのは分かってるわ」
「そうですか」
「そうじゃなくて」
言葉が止まる。
私は何を聞きたいのだろう。
仕事の内容?
課題?
違う。
たぶん。
知りたかったのは。
レオのことだ。
この一か月。
何をしていたのか。
何を考えていたのか。
どうして戻ってきたのか。
全部。
レオは少し困った顔をした。
「申し訳ありません」
「またそれね」
思わず笑ってしまう。
怒る気にもなれなかった。
***
放課後。
いつものようにレオは立ち上がる。
「失礼します」
そして教室を出て行く。
以前ならここで終わりだった。
けれど。
リリアナは立ち上がった。
ルイーゼが目を丸くする。
「リリアナ様?」
「少し用事よ」
そう言い残し。
教室を出る。
長い廊下。
レオの背中が見えた。
少し早足になる。
昔。
何度も見ていた背中。
でもいつも。
追いかけていたのはレオだった。
私じゃない。
「レオ」
呼ぶ。
レオが振り返った。
「お嬢様?」
追い付いた。
少しだけ息が上がっている。
そんな自分がおかしかった。
「今日は王都?」
「はい」
「そう」
そこで会話が途切く。
呼び止めたのに。
話したいことが山ほどあったのに。
何も出てこない。
レオが静かに待っていた。
昔からそうだった。
私が話すまで待ってくれる。
だから。
やっと言えた。
「無茶しないで」
レオが少し驚いた顔をした。
「課題なんでしょう?」
「はい」
「だったら」
視線を逸らす。
恥ずかしかった。
でも。
言わなければならない気がした。
「ちゃんと戻ってきなさい」
静かな沈黙。
レオはしばらく何も言わなかった。
やがて。
「はい」
優しく笑った。
「必ず」
その返事を聞いた瞬間。
少しだけ安心した。
本当に少しだけ。
馬車へ向かうレオの背中を見送る。
以前と同じ背中。
でも少し違う。
遠くなったようで。
近付いたようでもある。
リリアナは気付いていなかった。
今日初めて。
自分からレオを追いかけたことに。
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