第六話 追いつきたい
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
その日の放課後。
レオはまた早退した。
以前なら。
追いかけてきた。
「お嬢様」
そう呼びながら。
訓練場へ誘い。
課題の話をして。
私の隣を歩いていた。
今は違う。
私が教室を出る頃には。
もういない。
王都へ向かう馬車だけが残っている。
気付けば。
リリアナは校門まで来ていた。
もちろん馬車はもうない。
人通りだけが続いている。
「何してるのかしら」
小さく呟く。
答える人はいない。
最近ずっとそうだった。
分からない。
知らない。
教えてもらえない。
でも。
気になって仕方がない。
***
帰宅後。
夕食。
父と向かい合う。
静かな食卓だった。
「お父様」
父が視線を上げる。
「なんだ」
「私にも課題をください」
その瞬間。
父が止まった。
ナイフも。
フォークも。
全部。
「急にどうした」
「何となくです」
自分でも上手く説明できなかった。
ただ。
じっと待っているのが辛かった。
知らない場所で。
知らないことをしているレオを。
見ているだけなのが。
「今のお前に必要な課題はない」
父はそう言った。
「そうですか」
少しだけ落胆した自分に驚く。
昔は違った。
課題なんて面倒だった。
無茶ばかりだった。
なのに今は。
何かしていないと落ち着かない。
レオが前へ進んでいるからだろうか。
***
食事を終え。
部屋へ戻る。
机の上には青いペンダント。
手に取る。
冷たい。
誕生日の日。
あの時。
レオはずっと私を見ていた。
私のために動いていた。
私のために走っていた。
私は何をしていただろう。
課題を出して。
結果を待って。
それだけだった。
窓を開ける。
夜風が頬を撫でる。
王都の灯りが遠くに見えた。
その向こうに。
今もレオがいる。
きっと走っている。
もっと遠くへ。
もっと高い場所へ。
「ずるいわ」
思わず零れた。
一か月前。
置いて行かれたのは私だった。
学院でも。
公爵家でも。
今も。
私は何も知らない。
何もできない。
ただ見ているだけ。
それが嫌だった。
本当に嫌だった。
気付けば笑っていた。
少しだけ。
昔のレオを思い出す。
無茶な課題へ飛び込んでいく姿。
公爵令嬢なんて気にせず。
身分なんて気にせず。
ただ真っ直ぐだった。
そして初めて理解する。
あの頃のレオは。
こんな気持ちだったのかもしれない。
追いつきたい。
隣に立ちたい。
認められたい。
ただそれだけで。
前へ進んでいたのだと。
リリアナは夜空を見上げる。
一つだけ。
今なら分かることがあった。
課題の内容なんてどうでもいい。
王都で何をしているのかも。
それより。
私は。
置いていかれたくなかった。
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