第四話 噂
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
レオが婚約者候補になってから二週間。
学院で過ごす時間より。
王都へ向かう時間の方が長くなっていた。
「また早退ですの?」
ルイーゼが呆れたように言う。
「そうみたいね」
窓の外を見る。
校門の前には馬車。
レオは教師と言葉を交わし。
当然のように学院を去っていった。
以前のレオなら考えられなかった。
授業を休むことも。
訓練を休むことも。
いつも課題ばかりだった人が。
今は別の何かを追っている。
それだけは分かった。
「何してるんでしょうね」
ルイーゼが呟く。
「さあ」
その答えを。
一番知りたいのは私だった。
***
昼休み。
教室はいつもより騒がしかった。
「聞きました?」
「王都で話題になっているそうですわ」
令嬢達の声。
最近よく聞く。
「誰が?」
思わず聞いてしまう。
視線が集まった。
「レオさんですわ」
心臓が跳ねた。
嫌になるくらい。
「商人達の会合に出席したとか」
「騎士団とも会ったとか」
「王城へ呼ばれたとか」
次々に聞こえてくる。
どこまで本当なのだろう。
分からない。
でも。
父の反応を見る限り。
全て嘘とも思えなかった。
***
放課後。
帰宅したリリアナは真っ直ぐ父の執務室へ向かった。
珍しいことだった。
「入りなさい」
父が顔を上げる。
「どうした」
「レオのことです」
父の手が止まった。
少しだけ。
本当に少しだけ。
「何か知っているのですか」
「知っている」
「教えてください」
父は静かに椅子へもたれた。
「駄目だ」
即答だった。
思わず拳を握る。
「どうしてですか」
「課題だからだ」
その言葉に。
少しだけ腹が立った。
昔からそうだった。
課題。
課題。
課題。
レオも。
父も。
都合が悪くなるとそう言う。
「私は婚約者なんでしょう」
父がこちらを見る。
「そうだ」
「なら知る権利があります」
「ない」
静かな声だった。
だが揺るがなかった。
「この課題はオルスタッドの課題だ」
「お前の課題ではない」
それ以上は何も言わない。
話は終わりだった。
***
私は執務室を出る。
悔しかった。
何も知らないことが。
何もできないことが。
***
夜。
部屋へ戻る。
机の上には青いペンダント。
自然と手が伸びる。
最近は毎日そうだった。
触れる。
少しだけ落ち着く。
それが余計に腹立たしい。
「何してるのよ」
小さく呟く。
返事はない。
当たり前だ。
分かっている。
それでも聞きたかった。
どこにいるのか。
何をしているのか。
無茶はしていないか。
ちゃんと食べているか。
そんなことばかり考えている。
窓の外を見る。
王都の夜景が遠くに見えた。
そのどこかに。
今もレオがいる。
私の知らない場所で。
私の知らない人達と会い。
私の知らない課題に挑んでいる。
そのことが。
なぜだろう。
少し誇らしくて。
少し寂しかった。
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