第三話 遠い背中
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
レオが学院へ戻ってきて一週間。
けれど。
戻ってきたのは姿だけだった。
***
朝。
教室へ入る。
レオは既に席にいる。
以前なら。
授業が始まるまで話していた。
今は違う。
本を読んでいる。
時々書類を確認している。
見たことのない紋章が押されていた。
「おはようございます」
視線が合う。
「おはよう」
それだけ。
会話が続かない。
続けられない。
何を話せばいいのか分からなくなっていた。
***
昼休み。
レオの席には人だかりができていた。
「また王都へ行くのか?」
アレクシスが聞いている。
「はい」
「毎日じゃねぇか」
「仕事なので」
その返答ばかりだった。
仕事。
課題。
それしか言わない。
ルイーゼが小さく呟く。
「なんだか別人みたいですわ」
リリアナもそう思った。
前より大人になった。
前より落ち着いた。
でも。
どこか遠い。
***
放課後。
鐘が鳴る。
レオが立ち上がる。
「失礼します」
そのまま教室を出ていく。
以前なら。
訓練場へ向かった。
あるいは。
『お嬢様』
そう呼ばれた。
今はない。
何となく窓へ近付く。
校門の外。
一台の馬車が待っていた。
王都の紋章。
レオはそれへ乗り込む。
そして走り去る。
「……」
気付けば見送っていた。
以前の私なら考えもしなかったことだ。
***
その日の夜。
食堂。
「オルスタッドは順調だ」
突然父が言った。
スプーンが止まる。
「そうですか」
「既に幾つか成果も出している」
「何をしているのですか」
初めて自分から聞いた。
父が私を見る。
「言えん」
またそれだった。
最近ずっとそうだ。
誰も教えてくれない。
父も。
レオも。
ヴァルでさえ。
「その課題とやらは」
少し強い声になる。
「そんなに秘密なんですか」
父は答えない。
ただ静かに食事を続ける。
それが余計に腹立たしかった。
***
夜。
部屋へ戻る。
机には青いペンダント。
指先で触れる。
冷たい。
誕生日会の日を思い出す。
あの日。
私は何も知らなかった。
でも嬉しかった。
それだけだった。
今も同じだった。
何も知らない。
何も教えてもらえない。
ただ。
レオが遠い場所へ行ってしまいそうで。
それだけが少し怖かった。
窓の外では夜風が木々を揺らしている。
その音を聞きながら。
リリアナは初めて考えた。
課題を越えられなかったら。
婚約が解消されたら。
どうなるのだろうと。
そして。
その答えを考えたくない自分がいることに気付いてしまった。
お読み頂き、ありがとうございます。




