第二話 戻ってきたのに
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌朝。
リリアナはいつもより早く目が覚めた。
眠れなかった訳ではない。
ただ。
何度も目が覚めただけだ。
***
制服へ着替える。
鏡を見る。
少しだけ顔色が悪い。
「お嬢様」
エミリーが心配そうに見る。
「大丈夫よ」
そう答えた。
自分でも信じていないけれど。
***
学院へ向かう馬車の中。
窓の外を眺める。
頭の中では昨日のことばかりだった。
『レオ・オルスタッドと申します』
一か月ぶりに聞いた声。
婚約者。
知らない課題。
何も教えてくれない父。
何も話さないレオ。
考えれば考えるほど分からなくなる。
***
教室の扉を開く。
そして。
止まった。
窓際の席。
そこにレオが座っていた。
当たり前のように。
何事もなかったように。
ただ本を読んでいる。
その光景を見た瞬間。
胸の奥が大きく鳴った。
「おはようございます」
レオが顔を上げる。
いつも通りだった。
本当に。
信じられないほど。
いつも通り。
「お、おはよう」
少し声が上ずる。
レオは気付いていない。
気付かないまままた本へ視線を戻した。
それが少し腹立たしかった。
教室中は大騒ぎだった。
「レオ!」
アレクシスが真っ先に詰め寄る。
「どこ行ってたんだ!」
「少し用事です」
「少しじゃねぇだろ!」
周囲から笑いが起きる。
ルイーゼも涙目だった。
「本当に心配しましたのよ!」
「申し訳ありません」
素直に頭を下げる。
その様子を見ながら。
リリアナだけが黙っていた。
聞きたいことがある。
山ほどある。
でも聞けない。
昨日。
聞いても答えてもらえなかったから。
***
昼休み。
気付けばレオが隣へ来ていた。
「お嬢様」
「なによ」
「お弁当です」
差し出される包み。
昔と同じだった。
何も変わらない。
だから少しだけ混乱する。
「……ありがとう」
受け取る。
レオは小さく頷いた。
「今日は午後で早退します」
「え?」
思わず顔を上げる。
「仕事がありますので」
「仕事?」
「はい」
それ以上は話さない。
まただ。
昨日と同じ。
知らないことばかり。
そして午後。
本当に帰ってしまった。
教室の窓から。
馬車へ乗る姿が見える。
学院の生徒ではない。
まるで。
どこかの貴族みたいだった。
「忙しそうですわね」
ルイーゼが呟く。
「そうね」
リリアナは窓の外を見つめる。
戻ってきた。
確かに戻ってきた。
でも。
前と同じじゃない。
私の知らない場所で。
私の知らない課題へ向かっている。
そんな気がした。
***
その日の夜。
公爵邸の食堂。
父が静かに言った。
「明日からオルスタッドは王都へ出る」
スプーンが止まる。
「王都?」
「仕事だ」
父はそれ以上語らなかった。
だが。
リリアナには分かった。
知らないところで。
何か大きなことが動いている。
そしてその中心に。
レオがいるのだと。
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