第六話 紹介の日
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
婚約者候補の紹介当日。
空は晴れていた。
だからどうしたという話だった。
***
朝起きる。
食事をする。
身支度を整える。
何も変わらない。
エミリーが髪を整えている。
「お嬢様」
「なに?」
「綺麗です」
「そう」
それだけだった。
昔なら緊張していたと思う。
不安にもなったと思う。
でも今は違う。
何も感じない。
早く終わってほしい。
ただそれだけだった。
***
昼過ぎ。
父から呼び出しが来る。
公爵邸の応接室。
重い扉。
広い部屋。
父が窓際に立っていた。
「来たか」
「はい」
私は父の向かいへ立つ。
「もうすぐだ」
「分かっています」
父はしばらく何も言わなかった。
私も何も言わない。
静かな時間。
窓の外では風が木々を揺らしている。
昔なら。
この時間にレオは剣を振っていた。
そんなことを考えてしまう。
私は小さく目を閉じた。
終わったことだ。
もう。
終わったことなのだ。
コンコン。
扉が叩かれる。
執事が入ってくる。
「旦那様」
「入れなさい」
父が答える。
いよいよか。
そう思った。
胸は不思議なくらい静かだった。
期待もない。
不安もない。
ただ。
これで終わる。
そう思った。
執事が一礼する。
「お連れしました」
扉が開く。
足音が響く。
一歩。
また一歩。
聞き覚えがある気がした。
そんなはずはない。
そう思う。
なのに。
顔を上げずにはいられなかった。
青年が部屋へ入ってくる。
見慣れた黒髪。
真っ直ぐな背筋。
堂々とした立ち姿。
思考が止まる。
あり得ない。
そんなはずがない。
だって。
一か月も。
ずっと。
いなかったのだから。
青年は父の前まで進む。
そして胸に手を当てる。
綺麗な礼だった。
見たことがないほど。
綺麗な礼だった。
ゆっくりと顔を上げる。
視線が合う。
その瞬間。
止まっていた時間が動き出した。
「初めまして」
聞き慣れた声。
ずっと聞きたかった声。
青年は微笑んだ。
「レオ・オルスタッドと申します」
リリアナの思考は完全に停止した。
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