第四話 心配
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
レオがいなくなって一か月。
教室の空席にも慣れた。
慣れてしまった。
それが少し嫌だった。
***
朝。
教室へ入る。
席へ着く。
授業を受ける。
気付けば窓際を見ている。
誰もいない。
当たり前だった。
「リリアナ様」
ルイーゼが心配そうな顔をしていた。
「なに?」
「最近、本当に大丈夫ですの?」
またその話だった。
「大丈夫よ」
「大丈夫な人はそんな顔をしませんわ」
返事ができなかった。
ルイーゼはため息を吐く。
「アレクシス様も心配しておりますし」
「そう」
「レオさんもいなくなりましたし」
その名前が出た瞬間。
胸が少し痛んだ。
「その話はやめましょう」
ルイーゼは何も言わなかった。
それが逆に辛かった。
***
昼休み。
アレクシスが机へ肘をつく。
「見かけたら殴ってやる」
「誰を?」
「レオ」
思わず顔を上げた。
「どうしてよ」
「理由も言わず消えた」
アレクシスは不機嫌だった。
「仲間失格だろ」
少しだけ嬉しくなる。
心配しているのは私だけじゃなかった。
「そうね」
小さく返した。
「戻って来たら説教だな」
「ええ」
本当は。
説教なんてどうでもよかった。
ただ。
顔を見たい。
それだけだった。
***
放課後。
また顔合わせだった。
伯爵家の嫡男。
礼儀正しい。
優秀。
将来有望。
父も満足している。
だが。
私には何も響かなかった。
「趣味はありますか?」
聞かれる。
「読書です」
嘘だった。
最近は本も読めていない。
文字が頭に入らない。
「好きな男性のタイプは?」
笑顔で聞かれる。
その瞬間。
一人の顔が浮かんだ。
慌てて打ち消す。
「特にありません」
伯爵子息は残念そうだった。
どうでもよかった。
***
帰りの馬車。
エミリーが黙って隣に座っている。
「お嬢様」
「なに?」
「最近、夜眠れていますか?」
「眠れているわ」
嘘だった。
毎晩。
同じことばかり考える。
どこにいるのか。
何をしているのか。
怪我はしていないか。
ちゃんと食べているか。
そんなことばかり。
「お嬢様は優しいですね」
エミリーが言った。
「違うわ」
即答だった。
「心配なんてしていない」
「そうですか」
エミリーはそれ以上言わなかった。
部屋へ戻る。
机の上には青いペンダント。
手に取る。
冷たい。
でも。
少しだけ安心する。
その時だった。
扉がノックされる。
「お嬢様」
ヴァルだった。
「旦那様がお呼びです」
まただ。
最近増えた。
父の呼び出し。
理由は分かっている。
婚約者候補。
そう思いながら執務室へ向かう。
父は窓の外を見ていた。
私が入ると振り返る。
「来たか」
「はい」
短い沈黙。
そして。
「来週は約束の一か月後だ」
「……はい」
「正式な婚約者を決定する」
心が少しだけ沈む。
もう聞いた話だった。
でも。
こうして改めて言われると重い。
「当日は必ず出席しなさい」
「分かりました」
父は何も言わなくなった。
私も何も言わない。
会話は終わる。
部屋を出る。
長い廊下を歩く。
窓の外は夕焼けだった。
一週間後。
婚約者が決まる。
それで全部終わる。
そう思った。
それなのに。
頭に浮かぶのは。
戻ってこない少年のことばかりだった。
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