第三話 顔合わせ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
レオがいなくなって三週間。
季節は少しだけ進んでいた。
学院の木々は青々としている。
空も高い。
何も変わらない。
変わったのは私だけだった。
***
休日。
私は侯爵家の屋敷にいた。
婚約者候補との顔合わせ。
父が決めた予定の一つだった。
「リリアナ嬢」
向かいに座る少年が微笑む。
名門侯爵家の嫡男。
成績優秀。
剣の腕も立つ。
そう聞いている。
「お会いできて光栄です」
「ありがとうございます」
笑う。
いつも通り。
公爵令嬢として。
綺麗に。
丁寧に。
それだけ。
会話が続く。
好きな本。
学院の話。
将来の話。
相手は一生懸命だった。
悪い人ではない。
むしろ良い人なのだろう。
でも。
何も残らなかった。
***
帰りの馬車。
エミリーが向かいに座っている。
「いかがでしたか?」
「普通だったわ」
「そうですか」
それ以上は聞かなかった。
最近の私は何を聞かれても同じ答えしか返さない。
普通。
問題ない。
別に。
そればかりだ。
***
学院。
翌日。
教室へ入る。
席へ座る。
そして。
無意識に窓際を見る。
空席。
今日も誰もいない。
視線を逸らす。
最近はそれを見つけるのが早くなった。
嫌だった。
自分で自分が。
「おはよう」
アレクシスが席へ座る。
「おはよう」
「また顔合わせか?」
「ええ」
「どうだった」
私は少し考える。
「普通よ」
アレクシスはため息をついた。
「全部それだな」
返事はしなかった。
図星だったから。
***
放課後。
令嬢達が騒いでいた。
「侯爵家の方ですって」
「素敵な方らしいですわ」
「お似合いでは?」
私は立ち上がる。
聞きたくなかった。
今は。
何も。
訓練場の横を通る。
静かだった。
当然だ。
誰もいない。
それなのに。
足が止まる。
木剣を振る音が聞こえた気がした。
振り返る。
誰もいない。
ただ風が吹いているだけ。
私は小さく笑った。
本当におかしい。
いつまで探しているのだろう。
もう一か月近い。
戻らないなら。
それで終わりなのに。
***
夜。
公爵邸。
食事を終える。
父が静かに口を開いた。
「今週末も顔合わせだ」
「分かりました」
「伯爵家の嫡男だ」
「そうですか」
父が私を見る。
少しだけ。
悲しそうな目だった。
気のせいかもしれない。
私は席を立つ。
部屋へ戻る。
窓を開ける。
夜風が入ってくる。
机の上には青いペンダント。
あの日から外せなかった。
指先で触れる。
何も考えない。
考えたら苦しいから。
だから。
今日も目を閉じる。
明日も同じ一日が来る。
きっと。
何も変わらないまま。
お読み頂き、ありがとうございます。




