第二話 くだらないお茶会
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
レオがいなくなって二週間。
学院の生活は続いていた。
授業を受ける。
試験を受ける。
帰る。
それだけ。
何も変わらない。
変わっていないはずだった。
***
休日。
リリアナは王都の侯爵邸にいた。
お茶会だった。
公爵令嬢として断れない集まり。
最近は特に多い。
婚約者候補の話が出てからはなおさらだった。
「リリアナ様」
見知らぬ令嬢が話し掛けてくる。
「お会いできて光栄です」
「ありがとうございます」
笑う。
失礼のないように。
綺麗に。
慣れたものだった。
「今度、侯爵家のご子息とお会いするそうですね」
「そうらしいですわ」
「羨ましいです」
全く羨ましくなかった。
紅茶を口に運ぶ。
味がしない。
甘いのか。
苦いのか。
よく分からなかった。
「どの方がお気に入りですの?」
令嬢達が楽しそうに話している。
誰それが格好良い。
誰それが有望だ。
誰それは騎士団へ入る予定だ。
どうでもよかった。
本当に。
どうでもいい。
気付けば窓の外を見ている。
空は青かった。
ただそれだけだった。
「リリアナ様?」
呼ばれて我に返る。
「ごめんなさい」
「お疲れですの?」
「少し」
嘘ではなかった。
最近ずっと疲れている。
何もしていないのに。
そのままお茶会は終わった。
***
帰りの馬車。
向かいにはエミリーが座っている。
「楽しくありませんでしたか?」
「ええ」
隠す気にもなれなかった。
「最近はどれも同じよ」
顔合わせ。
お茶会。
食事会。
これから増える婚約者候補との会談。
全部同じだった。
同じ笑顔。
同じ会話。
同じ未来。
考えるだけで息が詰まった。
***
学院へ行く。
翌日。
いつも通り教室へ入る。
そして。
無意識に見てしまう。
窓際の席。
空席。
今日も誰も座っていない。
視線を逸らす。
最近それを見られるのが嫌だった。
まるで待っているみたいだから。
「おはようございます」
ルイーゼが隣へ来る。
「おはよう」
「今週も休学だそうです」
心臓が少しだけ痛んだ。
でも顔には出さない。
「そう」
それだけ答える。
ルイーゼは何か言いたそうだった。
でも言わなかった。
最近みんなそうだ。
心配している。
分かっている。
でも誰も踏み込まない。
私自身が壁を作っているから。
***
放課後。
いつものように帰る。
訓練場の前を通る。
木剣の音は聞こえない。
静かだった。
昔はうるさいくらいだったのに。
何となく立ち止まる。
何もない場所を見る。
そして少しだけ笑った。
以前の私は。
うるさいと思っていた。
毎日毎日。
飽きもせず剣を振っている姿を。
なのに今は。
その音がないことが少し寂しい。
寂しい。
その言葉が頭をよぎる。
リリアナは首を振った。
考えない。
考えても意味がない。
レオはもういない。
私は公爵令嬢だ。
婚約者も決まる。
それで終わりだ。
そう思いながら歩く。
それなのに。
夕日に染まった訓練場だけが。
妙に目に焼き付いて離れなかった。
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