第一話 空席
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
レオがいなくなって一週間が経った。
教室へ入る。
席に着く。
授業が始まる。
終わる。
また次の授業。
いつも通りだった。
何も変わらない。
学院は変わらず動いている。
だから。
その空席だけが目立った。
窓際の席。
誰も座っていない。
最初の数日は理由を考えた。
怪我。
病気。
依頼。
でも今は考えない。
考えても分からないから。
「リリアナ様」
ルイーゼが心配そうに見る。
「なに?」
「大丈夫ですの?」
「何が?」
「最近ずっと元気がありませんわ」
私は小さく笑う。
「そんなことないわ」
嘘だった。
でも。
認めるつもりもなかった。
***
昼休み。
令嬢達に囲まれる。
「今度のお茶会ですが」
「侯爵家のご子息もいらっしゃるそうですわ」
「婚約者候補でしょうか」
どうでもよかった。
本当に。
心の底から。
「そう」
それだけ答える。
令嬢達も困った顔をする。
最近の私は愛想が悪いらしい。
自覚はあった。
直す気力はなかった。
***
放課後。
父に言われた顔合わせも続いていた。
一人。
また一人。
貴族の子息達。
礼儀正しく。
優秀で。
将来有望。
きっと何も問題はない。
なのに。
何の感情も湧かなかった。
笑う。
話す。
お茶を飲む。
それだけ。
相手の顔も。
名前も。
すぐに忘れた。
***
夜。
部屋へ戻る。
窓を開ける。
風が入ってくる。
静かだった。
「お嬢様」
エミリーが紅茶を置く。
「今日の方はいかがでしたか」
「覚えてないわ」
エミリーは何も言わなかった。
最近は聞かない。
私が答えないと分かっているから。
それが少し申し訳なかった。
でも。
何も話したくなかった。
***
翌週。
学院。
やはりレオは来ない。
席は空。
訓練場も空。
***
放課後。
木剣の音もしない。
気付けば。
私は訓練場の前に立っていた。
誰もいない場所を見ている。
ちょっと前なら。
振る音が聞こえた。
馬鹿みたいに。
毎日。
毎日。
振り続けていた。
私は目を閉じる。
思い出すのはそんなことばかりだった。
笑った顔。
困った顔。
課題だと言う顔。
そればかり。
「お嬢様」
エミリーの声。
「旦那様がお呼びです」
私は振り返る。
父だ。
最近呼ばれることが増えた。
理由は分かっている。
婚約者候補。
その話だ。
執務室へ向かう。
扉を叩く。
「入りなさい」
父は書類から顔を上げた。
「一か月後」
開口一番だった。
「正式な婚約者を決める」
私は黙っていた。
反論もしない。
質問もしない。
そんな気力は残っていなかった。
「その日に紹介する」
「分かりました」
それだけ答える。
父が少しだけ眉を動かした。
何か言いたそうだった。
でも何も言わなかった。
私も何も言わない。
会話は終わる。
部屋を出る。
長い廊下を歩く。
窓の外には夕焼け。
綺麗だと思った。
それだけだった。
泣きたいわけでもない。
怒っているわけでもない。
ただ。
どうでもよくなっていた。
そして。
そのことだけが。
少し怖かった。
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