第四話 最初の授業
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌日。
私は少しだけ早く教室へ来ていた。
理由は単純。
レオがいないうちに心を落ち着けたかったからだ。
昨日は本当に疲れた。
三年前の告白。
街一番の冒険者。
学院二位。
そして、
『一緒にいたかったので来ました』
あれを平然と言える神経が分からない。
普通は恥ずかしいでしょう。
普通は。
「おはようございます、お嬢様」
背後から声がした。
私は机に額を打ちそうになった。
「レオ……」
「おはようございます」
今日もいつも通りだった。
爽やかな笑顔。
悪気ゼロ。
純度百パーセント。
だから困る。
「お、おはよう」
なんとか返事をする。
するとレオは自然に隣へ座った。
いや。
自然なの?
それ。
同じクラスとはいえ。
「何か御用ですか?」
「別に」
「そうですか」
会話終了。
だがレオはそのまま席を立たない。
何なのだろう。
「まだ何かあるの?」
「あります」
あるのね。
「課題についてです」
またそれだった。
この人の頭の中には課題しかないのだろうか。
「お嬢様」
「なに?」
「首席を取れば次の課題をいただけますか?」
私は頭を抱えた。
まだ授業も始まっていない。
試験も受けていない。
なのに次の話をしている。
「まず首席を取ってから考えなさい」
「分かりました」
素直だった。
その時。
教室へ教師が入ってくる。
中年の女性教師だった。
「席につきなさい」
すぐに静かになる。
「私は一年Aクラス担任のセシリアだ」
学院でも有名な教師らしい。
周囲の生徒達も緊張している。
「まずは実力を確認する」
そう言って紙を配り始めた。
教室がざわつく。
「筆記試験だ」
さらにざわついた。
「学院の授業は能力別に進める」
つまり実力テスト。
成績を測るためのものらしい。
「制限時間は一時間」
試験用紙が配られる。
私は目を通した。
難しい。
だが解ける。
問題ない。
そう思った時だった。
隣を見る。
レオ。
もう書いていた。
開始の合図すら出ていない。
「まだ始まってないわよ」
「読んでいました」
「ならいいけど」
この人、本当に大丈夫だろうか。
***
「始め」
試験が始まった。
教室が静まり返る。
ペンの音だけが響く。
私は問題を解いていく。
一問。
二問。
三問。
順調。
そして三十分後。
隣から手が上がった。
「終わりました」
早い。
早すぎる。
教室中がレオを見る。
教師すら少し眉を上げた。
「提出しろ」
「はい」
レオは前へ歩く。
提出。
そして席へ戻る。
終わり。
本当にそれだけ。
余裕そうに窓の外を見始めた。
(なんなのよ……)
私は少しだけムキになった。
首席は譲れない。
公爵令嬢として。
そして何より。
昨日あれだけ堂々と宣言されたのだ。
負けたくない。
***
試験終了。
答案が回収される。
教師は軽く目を通していた。
そして。
突然止まる。
レオの答案だった。
教室中が見ている。
教師は一枚。
また一枚。
丁寧に確認する。
「……ほう」
小さく呟いた。
嫌な予感。
「レオ」
「はい」
「満点だ」
教室が静まり返った。
そして次の瞬間。
大騒ぎになった。
「満点!?」
「本当に!?」
「このテストで!?」
私は固まった。
満点?
今の試験で?
嘘でしょう?
教師は続ける。
「しかも途中式も完璧だ」
ありえない。
私でも自信がない難問が混ざっていた。
すると教師が今度はこちらを見る。
「リリアナ」
「は、はい」
「九十八点」
負けた。
一問落としている。
たった二点。
でも負けた。
昨日まで余裕だった首席争いが、一瞬で怪しくなった。
レオは私を見る。
そして。
「流石です」
笑った。
「でも次は勝ちます」
私は思わず机を叩いた。
「もう勝ってるじゃない!」
教室が爆笑に包まれた。
レオだけが不思議そうな顔をしていた。
その顔を見て。
私は確信した。
この学院生活で一番厄介なのは。
侯爵家のアレクシスでも。
難しい授業でもない。
間違いなく。
このレオという男だった。
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