第二十話 距離
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
誕生日会から数日。
リリアナは変わってしまった。
最初にそう思ったのはルイーゼだった。
***
朝。
レオがいつものように教室へ入ってくる。
「おはようございます」
いつもの声。
いつも通り。
「おはよう」
リリアナも返す。
でも。
何かが違う。
ルイーゼは首を傾げた。
***
昼休み。
「お嬢様」
レオが近付く。
「なに?」
「この問題なんですが」
今までは。
隣へ座る。
話す。
自然だった。
だが。
「アレクシスに聞きなさい」
レオが止まった。
「お嬢様の方が詳しいと思いますが」
「今忙しいの」
視線も向けない。
レオは少し考える。
「分かりました」
そのまま離れていく。
ルイーゼとアレクシスが顔を見合わせた。
おかしい。
明らかに。
***
放課後。
鐘が鳴る。
レオが立ち上がる。
「お嬢様」
「なに?」
「今日は訓練場へ行きますか?」
いつもの誘い。
いつもの流れ。
なのに。
「行かないわ」
即答だった。
「用事?」
「ええ」
「そうですか」
レオは少し残念そうだった。
ほんの少しだけ。
それでも笑う。
「また今度ですね」
その笑顔が。
リリアナには辛かった。
「レオ」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
教室が静かになる。
「はい」
「最近少し馴れ馴れしいわ」
空気が止まる。
ルイーゼが目を見開く。
アレクシスも固まっていた。
レオも。
何を言われたのか理解できていない顔だった。
「お嬢様?」
「ここは学院よ」
言葉が止まらない。
止められない。
「公私を分けなさい」
胸が痛い。
苦しい。
でも。
言わなければならない。
「必要以上に話し掛けなくていいわ」
静寂。
誰も動かない。
誰も喋らない。
レオだけがそこに立っていた。
「……分かりました」
小さな声だった。
そして一礼する。
「申し訳ありません」
そのまま教室を出ていった。
足音が遠ざかる。
ようやく誰かが息を吐く。
「リリアナ様」
ルイーゼだった。
「今のは……」
「何でもないわ」
立ち上がる。
鞄を持つ。
ここにいたくなかった。
「何でもない」
自分に言い聞かせるように呟く。
公爵令嬢。
婚約者候補。
家。
責任。
全部正しい。
だから。
これでいい。
これで。
いいはずだった。
教室を出る直前。
アレクシスの声が聞こえた。
「おかしいな」
小さな声だった。
「お前がそんなことを言うとは思わなかった」
リリアナは足を止めなかった。
止めたら。
泣いてしまいそうだったから。
お読み頂き、ありがとうございます。




