第十八話 誕生日
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
誕生日会当日。
朝から屋敷は慌ただしかった。
使用人達が走り回り。
料理人達が準備を進め。
来客用の馬車が次々と到着する。
毎年のことだ。
分かっている。
なのに落ち着かなかった。
「お嬢様」
エミリーが髪を整える。
「とてもお綺麗です」
「ありがとう」
窓の外を見る。
まだ昼だった。
レオは来るだろうか。
そんなことを考えてしまう。
自分で呼んだのだから来るに決まっている。
分かっているのに。
なぜか気になった。
***
夕方。
誕生日会が始まる。
侯爵家。
伯爵家。
王都の有力者達。
多くの来客が訪れる。
「お誕生日おめでとうございます」
祝いの言葉。
贈り物。
笑顔。
私はそれらを受け取り続けた。
だけど。
気付けば入口を見ている。
何度も。
何度も。
「お嬢様」
ヴァルの声。
「何かお探しですか」
「別に」
即答した。
ヴァルは何も言わなかった。
少しだけ口元が緩んでいた気がする。
そして。
会が始まってしばらくした頃。
入口が開いた。
見慣れた姿。
レオだった。
なぜだろう。
それだけで安心した。
胸の奥にあった何かがすっと消える。
「遅いわ」
近付いてきたレオへ言う。
「申し訳ありません」
本当に申し訳なさそうだった。
「依頼が長引きました」
「そう」
私はそれ以上聞かなかった。
聞く必要もなかった。
来てくれた。
それで十分だった。
***
宴は続く。
豪華な贈り物が並ぶ。
宝石。
魔道具。
装飾品。
どれも高価だ。
どれも立派だ。
でも。
どこか遠く感じた。
そして最後。
レオの番になる。
会場の視線が集まる。
学院首席。
平民出身。
公爵令嬢に招待された少年。
皆が見ていた。
レオは小さな箱を差し出した。
「お誕生日おめでとうございます」
それだけ。
いつものように。
飾り気もなく。
私は箱を受け取る。
静かに開く。
青い光が見えた。
ペンダントだった。
深い蒼。
海のような色。
見た瞬間に目を奪われた。
綺麗だ。
本当に。
言葉が出ないほど。
「これは……」
箱の中を見つめる。
そして。
全部繋がった。
一週間の欠席。
増えた傷。
日に焼けた姿。
放課後にいなくなった理由。
宝飾工房。
全部。
全部。
説明なんていらなかった。
分かってしまった。
胸が熱くなる。
視界が少し滲む。
泣くつもりなんてなかった。
なのに。
どうしてだろう。
涙が止まらなかった。
「お嬢様!?」
周囲が慌てる。
でも私は首を振る。
違う。
悲しいわけじゃない。
苦しいわけでもない。
ただ。
本当にただ。
嬉しかった。
気付けば笑っていた。
満面の笑みで。
今までで一番。
「ありがとう」
それしか言えなかった。
レオが少し照れたように笑う。
「良かったです」
それだけだった。
***
でも。
その瞬間。
会場の奥から二人を見ていた男がいる。
クラインベルク公爵。
娘の父。
公爵は静かにグラスを置いた。
娘の顔を見る。
今まで見たことのない笑顔だった。
本当に幸せそうな顔だった。
そして理解する。
これは見過ごせない。
あまりにも。
遅くなる前に。
動かなければならない。
公爵は静かに目を閉じた。
***
誕生日会はまだ続いている。
だが。
運命はもう動き始めていた。
お読み頂き、ありがとうございます。




