第十五話 最近おかしい
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
誕生日会まで一か月。
レオは相変わらずだった。
朝は早い。
授業は真面目。
居眠りもしない。
課題の話もする。
何も変わらない。
そう思っていた。
***
最初に違和感を覚えたのは放課後だった。
「お嬢様」
授業終了の鐘が鳴る。
「なに?」
「先に失礼します」
レオが立ち上がった。
私は少し驚く。
「訓練は?」
「今日はやりません」
「そう」
珍しい。
だが。
それだけだった。
***
次の日。
また同じだった。
「先に失礼します」
木剣を持っていない。
訓練場にも向かわない。
そのまま校門を出ていった。
「珍しいですわね」
ルイーゼが首を傾げる。
「そうね」
少しだけ気になった。
レオは毎日剣を振っていた。
雨の日も。
風の日も。
だから。
何となく落ち着かなかった。
三日目。
四日目。
五日目。
やはり訓練場にいない。
私は訓練場の前で立ち止まった。
いつもの場所。
いつもなら。
誰よりも大きな音を立てて木剣を振っている。
でも今日は静かだった。
「何してるのかしら」
小さく呟く。
「誰がですか?」
エミリーだった。
「レオよ」
気付けば答えていた。
エミリーが無言になる。
嫌な予感がした。
「なによ」
「いえ」
「言いなさい」
「随分気にされていますね」
私は眉をひそめる。
「気にしていないわ」
「訓練場へ来ています」
「散歩よ」
「五日連続で?」
余計なことを言う。
私は視線を逸らした。
***
その週の終わり。
レオは学院へ来なかった。
一日。
二日。
三日。
私は落ち着かなかった。
「風邪じゃないですか?」
ルイーゼが言う。
「そうかもしれないわね」
言いながら。
違う気がした。
授業中も。
昼休みも。
何となく教室の入口を見る。
来ない。
気付いてしまう。
最近。
私はレオを探している。
その事実に。
少しだけ戸惑った。
そして。
一週間後。
レオは戻ってきた。
「おはようございます」
教室へ入ってくる。
制服が少し汚れていた。
日に焼けている。
手にも細かな傷。
顔も少し疲れていた。
それなのに。
やけに満足そうだった。
「何してたのよ!」
気付けば立ち上がっていた。
教室が静まる。
私も固まる。
しまった。
レオが目を丸くする。
「お嬢様?」
「い、いえ」
言い訳を探す。
見つからない。
「体調を崩したのかと思っただけよ」
苦しい。
かなり苦しい。
でも。
レオは少し笑った。
「大丈夫です」
「どこに行っていたの?」
「依頼です」
それだけだった。
説明はない。
いつもならもっと話す。
なのに。
今日は話さない。
何かを隠している。
そう思った。
***
放課後。
鐘が鳴る。
そして。
「失礼します」
また。
レオは先にいなくなった。
私は校門の方を見る。
夕陽に照らされた背中。
迷いなく歩いていく。
どこへ向かうのか。
何をしているのか。
分からない。
分からないのに。
胸の奥が落ち着かない。
その日の帰り道。
私は窓の外を眺めながら考えていた。
別に課題の心配ではない。
そう。
きっと違う。
だけど。
明日もあの背中が見えたら。
少しくらい。
後をつけてみてもいいかもしれない。
そんなことを考えている自分に。
リリアナ自身が一番驚いていた。
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