第七話 舞踏会の相手
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
春季舞踏会まで残り三日。
学院中が浮ついていた。
誰が誰と踊るのか。
誰が誰をエスコートするのか。
そんな話ばかり聞こえてくる。
大半が呼ばれるわけではないはずだが。
やはり貴族子女だけあって。
そういう話題は気になるのだろうか。
***
「リリアナ様」
昼休み。
ルイーゼが楽しそうな顔で近付いてきた。
「なに?」
「舞踏会のお相手はお決まりですか?」
私は固まった。
考えていなかった。
正確には。
考えないようにしていた。
「普通は家同士の付き合いで決まるわ」
「つまり未定ですのね」
鋭い。
ルイーゼが少し笑う。
「レオさんは?」
「知らないわ」
本当に知らなかった。
気になったけれど。
聞いていない。
その時。
「お嬢様」
噂をすれば。
レオがやって来た。
「なに?」
「舞踏会なんですが」
嫌な予感。
とても嫌な予感。
「相手がいません」
教室が静かになった。
近くにいた生徒達も聞いている。
「そう」
必死に平静を装う。
「困りますね」
レオが真面目な顔で言った。
本当に困っているらしい。
すると。
「なら私が——」
近くにいた令嬢が口を開く。
私は反射的にそちらを見た。
令嬢は少し怯んだ。
なぜだろう。
自分でも分からない。
「ありがとうございます」
レオが頭を下げる。
私はなぜか落ち着かなくなる。
当然だ。
舞踏会なのだから。
相手は必要。
何もおかしくない。
それなのに。
胸の奥が少しだけ重かった。
***
その日の放課後。
舞踏室。
音楽が流れる。
いつもの練習。
でもどこかぎこちなかった。
「お嬢様」
「なに?」
「今日は調子が悪いですか?」
ドキッとした。
「どうして?」
「三回踏まれました」
私は足を見た。
本当だった。
「ご、ごめんなさい」
「大丈夫です」
レオは笑う。
それがまた少し腹立たしい。
「何でもないわ」
「そうですか」
数歩歩く。
回る。
止まる。
そして。
私は聞いてしまった。
「舞踏会の相手」
レオが瞬きをした。
「はい」
「本当に決まってないの?」
「決まってません」
即答だった。
「誘われたりしないの?」
「何人かには」
胸が変な音を立てた。
「そう」
「ですが断りました」
今度は私が止まる。
「どうして?」
レオは不思議そうな顔をした。
「課題があります」
またそれだった。
だけど。
今回は少し違う気がした。
「舞踏会で恥をかかないこと」
「それだけなら相手は誰でもいいでしょう?」
気付けばそう言っていた。
レオは少し考える。
本当に少しだけ。
「そうかもしれません」
そして。
真っ直ぐこちらを見た。
「でも」
「?」
「せっかくならお嬢様と踊りたいです」
音楽が止まった気がした。
呼吸も。
思考も。
全部。
レオはいつも通りだった。
課題の話をしているだけ。
そうなのだろう。
でも。
私の胸は全然そう思ってくれなかった。
「……」
「お嬢様?」
「し、知らないわ!」
私はレオの手を振り払うように離れる。
「舞踏会のことは舞踏会になってから考えなさい!」
「分かりました」
レオは素直に頷いた。
本当に。
どうしてこの人は。
こんなにも簡単に。
私の心をかき乱すのだろう。
窓の外では夕日が沈みかけていた。
そしてリリアナはまだ知らない。
舞踏会での一曲が。
自分の気持ちを誤魔化せなくなる最初の一歩になることを。
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