第六話 初めての嫉妬
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
春季舞踏会まで残り一週間。
今日も放課後になると、私は舞踏室へ向かっていた。
もちろん課題のためだ。
レオにダンスを教えるため。
それ以外の理由はない。
……ないはずだ。
***
舞踏室へ入る。
まだレオは来ていない。
少し早く着きすぎたらしい。
私は窓際へ移動し、外を眺めた。
夕焼けが綺麗だった。
しばらくして扉が開く。
レオだと思った。
だが違った。
「リリアナ様」
伯爵令嬢のソフィアだった。
「どうしたの?」
「その……」
少し言いづらそうに視線を逸らす。
「レオさんはいらっしゃいますか?」
胸が少しだけ引っ掛かった。
「もうすぐ来ると思うけど」
「そうですか」
ソフィアの顔が明るくなる。
その反応が。
なぜだか少し気になった。
その時。
「お待たせしました」
レオが入ってきた。
いつも通り。
少し汗を流しながら。
恐らく剣の訓練帰り。
「レオさん!」
ソフィアが駆け寄る。
レオは首を傾げた。
「どうしました?」
「お願いがあるんです」
「お願い?」
ソフィアが頷く。
「私も舞踏会へ参加するんです」
確かに。
伯爵家の令嬢であるソフィアなら。
王都春季舞踏会に呼ばれていてもおかしくない。
「だから、その……」
少し恥ずかしそうに。
「一緒に練習していただけませんか?」
沈黙。
私はなぜか返事を待っていた。
別に気にならない。
気にならないけれど。
返事だけは聞きたかった。
「俺ですか?」
「はい」
ソフィアが期待した目を向ける。
そして。
レオは少し考えた。
「無理です」
即答だった。
私もソフィアも固まる。
「え?」
「俺はまだ教えてもらう側なので」
あっさり。
本当にあっさり。
「ですが」
レオが私を見る。
「お嬢様なら大丈夫です」
「へ?」
「俺よりずっと上手です」
今度は私が固まった。
「お嬢様にお願いした方がいいと思います」
ソフィアの視線。
私へ移動。
「えっと……」
気まずい。
とても気まずい。
レオは本気なのだろう。
だから余計に困る。
「リリアナ様、お願いできますか?」
断る理由もない。
「……いいわよ」
ソフィアが嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます!」
そして練習が始まる。
私はソフィアへ基本を教えた。
姿勢。
手の位置。
歩幅。
貴族の令嬢だから飲み込みも早い。
その間。
レオは壁際で真剣に見学していた。
メモまで取っている。
本当に課題しか頭にないらしい。
少し安心する。
何に安心しているのか。
自分でも分からないけれど。
練習が終わる頃には外は夕暮れだった。
「ありがとうございました!」
ソフィアが帰っていく。
舞踏室には私とレオだけが残った。
「お嬢様」
「なに?」
「凄かったです」
「何が?」
「教えるの上手ですね」
少し誇らしい気持ちになる。
「当然でしょう」
「流石です」
レオが素直に頷く。
少しだけ機嫌が良くなった。
そして。
そこで気付く。
さっきまで胸の奥にあった小さな引っ掛かりが消えていることに。
私は考えた。
なぜだろう。
ソフィアがレオへ話し掛けた時。
少しだけ。
本当に少しだけ。
面白くなかった。
でも。
レオが私を見た瞬間。
その感情は消えた。
私は窓の外を見る。
夕焼けが赤かった。
そして心の中で小さく呟く。
「……違うわよね」
何が違うのか。
その答えを。
私はまだ知らないふりをしていた。
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