第二十一話 誰のための課題
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
中間試験まで二週間。
学院全体がどこか慌ただしかった。
図書館は満席。
自習室も埋まっている。
廊下を歩けば勉強の話ばかり。
首席争いもいよいよ本格化していた。
私は教室で資料を整理していた。
すると。
向かいの席に誰かが座る。
見なくても分かる。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう」
レオだった。
最近は挨拶も自然になってきた。
少し悔しい。
「試験勉強は順調?」
「はい」
即答だった。
「首席を取れそう?」
「取ります」
質問を少し間違えた気がした。
「そう」
「はい」
本当にブレない。
私は思わず笑ってしまう。
「お嬢様?」
「なんでもないわ」
レオは不思議そうな顔をした。
その時だった。
「失礼する」
アレクシスだった。
彼も最近は同じ教室にいる時間が増えた。
試験が近いからだろう。
「勉強会を開く」
突然そんなことを言う。
「勉強会?」
「上位生徒を中心にな」
そして。
アレクシスはレオを見る。
「お前も来い」
「分かりました」
即答。
「断らないのね」
「勉強になりますので」
それもそうか。
するとアレクシスが少し笑った。
「最近お前の評価は上がっている」
教室が静かになる。
「そうなんですか?」
レオは本気で知らなかったらしい。
「優勝した」
「勉強もできる」
「面倒見もいい」
一つずつ数える。
「教師からの評価も高い」
レオは少し考えた。
「良かったです」
それだけだった。
アレクシスが呆れたように笑う。
「もう少し喜べ」
「首席を取れたら喜びます」
全員が苦笑した。
課題。
また課題。
本当に。
この人の世界はそれで出来ている。
***
放課後。
勉強会が始まった。
上位生徒ばかり十数人。
当然難しい話になる。
歴史。
法律。
魔術理論。
そして。
「ここなんだけど」
一人の伯爵家の子息がレオへ質問する。
「なるほど」
レオが説明する。
分かりやすい。
私でも思う。
すると。
「ありがとう」
「助かった」
自然に礼を言われていた。
もう誰も。
平民だからとは言わない。
ただ。
レオとして接している。
私はその光景を見ていた。
課題は順調に進んでいる。
そう思った。
だけど。
なぜだろう。
少しだけ。
胸が引っかかった。
***
勉強会が終わる。
外は夕暮れだった。
「お嬢様」
レオが隣へ来る。
「なに?」
「今日は楽しかったです」
「そう」
「皆いい人でした」
嬉しそうだった。
私はしばらく黙る。
そして。
「レオ」
「はい」
「その課題」
レオが首を傾げる。
「首席のことでしょうか?」
「ええ」
「誰のためにやっているの?」
聞いてみたかった。
本当に。
少しだけ。
レオは考えなかった。
一秒も。
「お嬢様のためです」
即答だった。
夕日が差し込む。
私は思わず立ち止まった。
「私のため?」
「はい」
当然みたいに言う。
「課題ですから」
「……」
「でも」
そこで初めて。
レオが少しだけ笑った。
「今は少し違います」
珍しい。
自分から続けるなんて。
「どういう意味?」
レオは前を向いたまま言う。
「お嬢様が信じてくれたからです」
風が吹く。
青い髪飾りが揺れた。
「三年前」
「皆無理だと言ったと思います」
「でも」
「お嬢様は課題をくれました」
私は返事ができなかった。
あれは。
本当にただの出来心だったから。
だけど。
レオは違う。
ずっと。
ずっと。
あの日から本気だった。
「だから」
レオが振り返る。
「期待に応えたいんです」
真っ直ぐな目だった。
三年前と同じ。
何も変わらない目。
胸が少しだけ苦しくなる。
そして私は。
気付かないふりをした。
自分がその言葉を。
何よりも嬉しいと思ってしまったことに。
お読み頂き、ありがとうございます。




