第二十話 名前だけで
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
中間試験まで残り三週間。
レオは以前と変わらなかった。
朝は誰より早く来る。
授業は真面目に受ける。
放課後は鍛錬。
そして空いた時間は勉強。
課題のため。
それだけの理由で。
けれど。
周囲は少しずつ変わっていた。
「レオ、この問題教えてくれ」
「ここが分からないんだが」
「レオ君、歴史も得意なの?」
気付けば。
平民だからではなく。
優勝者だからでもなく。
レオだから。
そんな理由で人が集まるようになっていた。
***
昼休み。
私はその光景を少し離れた場所から見ていた。
「凄いわね」
思わず呟く。
***
「そうですわね」
ルイーゼも頷いた。
「最近、本当に人気ですもの」
「ええ」
以前なら違った。
冒険者。
平民。
変わり者。
そんな印象だったはずだ。
今は違う。
「レオなら知ってる」
「レオならできる」
そんな言葉をよく聞く。
私は小さく微笑んだ。
少しだけ。
本当に少しだけ嬉しい。
すると。
「リリアナ嬢」
アレクシスがやって来た。
「どうしたの?」
「試験対策だ」
彼の手には大量の資料。
「教師達が過去問をまとめていたらしい」
「よく見つけたわね」
「情報収集も実力だ」
アレクシスらしい。
「レオにも渡してくる」
そう言って歩き出す。
私は少し意外だった。
「ライバルでしょう?」
アレクシスが振り返る。
「だからだ」
少し笑う。
「手を抜いて勝っても意味がない」
その言葉に嘘はなかった。
私は何となく安心した。
この二人はきっと。
良いライバルなのだろう。
***
その日の放課後。
図書館。
試験前ということもあり満席だった。
私も勉強している。
そのつもりだった。
だが。
「レオ君!」
「ここ教えて!」
「俺も!」
相変わらず囲まれている。
もはや勉強しているのか家庭教師なのか分からない。
それなのに。
嫌な感じはしなかった。
以前なら少しだけ気になっていたかもしれない。
でも今は違う。
皆が笑っている。
レオも笑っている。
その光景を見ている方が気持ちよかった。
ふと。
教師が通り掛かる。
「レオ」
「はい」
「また質問攻めか」
「そうみたいです」
教師が苦笑する。
「大変だな」
「楽しいです」
即答だった。
教師が笑う。
「お前らしいな」
私はそこで気付いた。
先生も。
もう。
平民のレオとして見ていない。
一人の優秀な生徒として見ている。
それは課題に少し近付いた証拠だった。
『皆に認められなさい』
簡単な課題ではない。
点数なら努力で何とかなる。
剣も努力で強くなれる。
でも。
人の評価は違う。
だからこそ。
達成できたら価値がある。
そう思っていた。
***
帰宅前。
「お嬢様」
レオが声を掛ける。
「なに?」
「これ」
一枚の紙を差し出してきた。
試験の学習計画だった。
細かく整理されている。
時間割。
目標点。
復習内容。
驚くほど綺麗だった。
「作ったの?」
「はい」
「あなた意外と几帳面なのね」
「意外ですか?」
「かなり」
レオは少し考える。
「三年前からです」
私は止まった。
「え?」
「計画を立てるようになったの」
レオが言う。
「街一番になるためには何をすればいいか考えるようになったので」
その言葉に。
私は返事ができなかった。
三年前。
私が軽い気持ちで出した課題。
その一言が。
この人の人生を変えた。
そして今も。
前へ進ませている。
「だから」
レオが笑う。
「お嬢様には感謝しています」
夕日が差し込む。
オレンジ色の光の中。
私は少しだけ目を伏せた。
感謝される資格なんてない。
だってあれは。
本当に。
ただの出来心だったのだから。
だけど。
もし。
あの日に戻れるとしても。
きっと私は。
同じ課題を出してしまうのだろう。
そんな気がした。
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