第十八話 平民だから
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
学院首席。
新しい課題が出された翌日。
レオは相変わらずだった。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう」
「首席、取ります」
「毎朝宣言しなくていいわよ」
いつものやり取り。
いつもの朝。
だけど。
今日は少しだけ違った。
***
一限目終了後。
廊下を歩いていると、前方から話し声が聞こえた。
数人の貴族子息。
上級生だ。
「レオか」
「ああ」
「剣は強いらしいな」
「でも平民だろ?」
私は足を止めた。
「所詮は平民だ」
「学院は勉強する場所だぞ」
「貴族の教育を受けてきた俺達と同じ土俵に立てるわけがない」
「首席なんて無理だろ」
笑い声。
私は眉をひそめた。
当然と言えば当然だった。
貴族社会。
身分社会。
平民出身が首席を目指すなど、面白くない者もいる。
だが。
その時。
「それは違います」
静かな声。
レオだった。
上級生達が振り返る。
私も振り返る。
「違う?」
「はい」
レオは首を傾げた。
本当に不思議そうに。
「勉強は誰でもできます」
上級生が鼻で笑う。
「貴族教育を受けてなくても?」
「はい」
即答。
「努力すればできます」
空気が変わる。
挑発ではない。
侮辱でもない。
本心だ。
だから余計に刺さる。
「随分自信があるな」
「あります」
「首席を取れると?」
「取ります」
レオは真っ直ぐ答えた。
「課題なので」
上級生達が呆れた顔になる。
私も少しだけ頭を抱えた。
そこで課題を出すのね。
そういうところよ。
だが。
その時だった。
「面白い」
新しい声。
アレクシスが現れた。
「なら証明してみせろ」
上級生達が道を開く。
侯爵家の嫡男。
誰も無視できない。
「次の中間試験」
アレクシスが腕を組む。
「勝負だ」
「はい」
レオも即答。
「総合順位で競う」
「分かりました」
「私が勝ったら」
アレクシスが少し笑う。
「首席は諦めろ」
「嫌です」
即答だった。
私は思わず吹き出しそうになった。
断るのね。
そこ。
「課題なので」
「そうだろうな」
アレクシスが苦笑する。
「なら私が勝っても続けるだろうな」
「はい」
「知っていた」
周囲から笑い声が漏れた。
いつの間にか。
皆が笑っていた。
上級生達も。
周囲の生徒達も。
さっきまで馬鹿にしていた空気が少し変わっている。
レオは気付いていない。
きっと。
でも私は気付いた。
昨日出した課題。
『皆に認められなさい』
それは。
点数だけでは無理だ。
強さだけでも無理。
だけど。
レオには人を惹きつける何かがある。
身分を超えて。
常識を超えて。
それが少しずつ広がっている。
放課後。
私は一人で窓の外を見ていた。
グラウンド。
レオが木剣を振っている。
繰り返し。
繰り返し。
ただひたすら。
三年前。
教会で出会った時も。
きっとこんな風に。
真っ直ぐだったのだろう。
「お嬢様」
いつの間にか。
レオが教室へ戻ってきていた。
「なに?」
「今日も頑張ります」
「何を?」
「課題です」
やっぱりそれだった。
私は小さく笑う。
「そう」
「はい」
「なら頑張りなさい」
「頑張ります」
迷いのない返事。
その背中を見ながら。
私はふと思った。
首席。
たぶん取るだろう。
問題はその後だ。
この人は。
きっとそこで止まらない。
そして私は。
そんなレオを少し誇らしく思っている自分に気付き始めていた。
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