第十七話 次の課題
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
休日明け。
学院へ向かう馬車の中。
私は窓の外を眺めながら、小さく息を吐いた。
休日は屋敷で過ごした。
勉強をして、本を読んで。
いつも通りの二日間。
……のはずだった。
鏡を見るたび。
青い花の髪飾りが目に入る。
外そうと思ったこともあった。
でも結局。
今日も付けてきてしまった。
理由は特にない。
本当に特にない。
***
教室へ入る。
まだ人は少ない。
窓際ではレオが本を読んでいた。
私に気付くと、本を閉じる。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう」
自然に言葉が返る。
最近では、このやり取りにも慣れてしまった。
レオは一瞬だけ私の髪を見る。
それ以上は何も言わなかった。
前に一度、十分伝えたと思ったのだろう。
その気遣いが少しだけ嬉しい。
……だから困る。
***
やがて生徒達が集まり始める。
話題は当然、剣術大会だった。
その時。
「レオ」
私は呼んだ。
「はい」
「剣術大会優勝」
「しました」
「課題達成ね」
周囲が少し静かになる。
皆知っているのだ。
レオが課題の話をしていることを。
「はい」
レオが頷く。
真面目な顔だった。
「次の課題をください」
教室が静まり返った。
私は少しだけ後悔した。
そうだった。
この人はこういう人だった。
優勝したすぐに次の課題を要求してくる人だった。
***
「……」
考える。
本気で考える。
正直なところ。
想定していなかった。
街一番の冒険者。
学院首席候補。
剣術大会優勝。
全部こんな早く達成するなんて。
普通思わないでしょう。
***
「お嬢様?」
レオが首を傾げる。
少し焦っているようにも見える。
まさか。
課題がないと困るのだろうか。
私は思わず笑った。
「そうね」
少し考える。
そして。
ふと思いつく。
「次は学院首席を取りなさい」
教室がざわめく。
かなり難しい課題。
でも。
剣術大会よりは自然だ。
レオは頷く。
「分かりました」
やはり即答だった。
もう驚かない。
だが。
そこで終わらなかった。
「ただし」
私は続けた。
「今度は一位を取るだけじゃ駄目よ」
レオが少しだけ真面目な顔になる。
「どういうことでしょうか」
「ただ点数で勝つだけじゃ意味がないわ」
私はアレクシスを見る。
彼も黙って聞いていた。
「皆に認められなさい」
静かな空気になる。
「生徒にも」
「先生にも」
「貴族にも」
一つずつ言う。
「平民だからじゃない」
レオを見る。
「レオだから首席だと言われるくらいになりなさい」
それは。
点数より難しい課題だった。
少しだけ意地悪だったかもしれない。
だって。
努力だけではどうにもならない部分もある。
でも。
レオは。
「分かりました」
そう言って笑った。
「それなら頑張れそうです」
本当に。
この人は。
教室の窓から風が吹き込む。
青い髪飾りが揺れた。
そして私は気付く。
次の課題を考える時。
もう私は。
諦めさせるために考えていない。
どうすればもっと高い場所へ行けるか。
そればかりを考えていた。
それが何を意味するのか。
まだこの時の私は気付いていなかった。
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