第十四話 優勝
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
決勝戦。
演習場の熱気は最高潮に達していた。
観客席は満席。
立ち見まで出ている。
貴族学院の剣術大会とは思えないほどの盛り上がりだった。
その中心にいるのは。
もちろんレオだった。
***
「決勝戦を開始する!」
歓声が響く。
レオの対戦相手は三年生。
昨年準優勝者。
実力者として知られている先輩だった。
だが。
周囲の反応を見る限り。
既に勝敗は決まっていると思われている。
それほどまでに。
先ほどのアレクシス戦は衝撃的だった。
***
レオが中央へ進む。
木剣を持つ。
礼をする。
対戦相手も礼を返す。
「始め!」
試合開始。
先輩が動いた。
速い。
アレクシスほどではない。
だが十分強い。
鋭い斬撃。
鋭い踏み込み。
だが。
レオは静かだった。
一歩。
二歩。
最小限の動きで避ける。
受ける。
流す。
焦る様子もない。
五合。
十合。
十五合。
そして。
レオが踏み込む。
たった一歩。
ギィンッ!
木剣が弾かれた。
勝負あり。
「そこまで!」
決着。
一瞬の静寂。
そして。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
会場が揺れた。
拍手。
歓声。
口笛。
誰もが立ち上がっている。
「優勝だ!」
「一年生が優勝したぞ!」
「レオー!!」
私は呆然としていた。
本当にやってしまった。
街一番の冒険者。
学院二位。
剣術大会優勝。
全部本当だった。
全部。
レオが優勝トロフィーを受け取る。
眩しそうだった。
嬉しそうだった。
でも。
どこか探しているようにも見えた。
誰かを。
何かを。
そして。
視線が合った。
私と。
胸が鳴る。
レオは笑った。
本当に嬉しそうに。
その笑顔を見た瞬間。
私は気付いてしまう。
自分が。
こんなにも。
この人の勝利を喜んでいることに。
「お嬢様?」
エミリーの声。
「大丈夫ですか?」
「……ええ」
大丈夫だった。
でも少しだけ。
胸が変だった。
表彰式が終わる。
人が動き始める。
解散ムード。
だけど。
私はまだ席を立てなかった。
三年前。
教会。
『街一番の冒険者になりなさい』
私は無理だと思った。
『それができたら次の課題をあげるわ』
だから言った。
適当に。
本当に。
ほんの出来心で。
なのに。
この人は全部本気だった。
「お嬢様」
いつの間にか。
レオが目の前に立っていた。
汗を流している。
制服も少し乱れている。
それでも。
真っ直ぐだった。
「優勝しました」
知っている。
見ていた。
ずっと。
「ええ」
「約束です」
周囲がざわついた。
当然だった。
公爵令嬢と学院優勝者。
皆見ている。
でも。
そんなことはどうでもよかった。
「覚えているわ」
レオの表情が少しだけ柔らかくなる。
「お願いを聞いてください」
胸が高鳴る。
変なお願いだったらどうしよう。
そんなことを考えていた。
そして。
レオは言った。
「今度の休日」
一呼吸。
「一緒に街へ行きましょう」
それだけだった。
私は思わず目を瞬いた。
もっと何か。
すごいお願いを想像していた。
無茶なこととか。
困ることとか。
でも違う。
本当に。
ただ一緒に出掛けたいだけ。
三年間頑張って。
学院で優勝して。
お願いしたことが。
それだけ。
「……あなたね」
「はい」
「本当に変な人だわ」
「よく言われます」
会場のあちこちから笑いが漏れる。
私まで少し笑ってしまった。
そして。
ほんの少しだけ顔を逸らして。
「いいわ」
言った。
「約束だもの」
レオの目が大きく開く。
驚いている。
まるで断られると思っていたみたいに。
それがおかしくて。
私はさらに言った。
「ただし」
「はい」
「護衛だからね」
一瞬の沈黙。
そして。
レオが笑った。
「はい」
その笑顔を見た瞬間。
私の胸はまた少しだけ高鳴った。
そして私はまだ知らない。
その一度の買い物が。
私が想像していたよりもずっと特別な一日になることを。
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