第十三話 開幕
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
学院剣術大会当日。
朝から学院はお祭り騒ぎだった。
普段は授業に使われている大演習場も、今日は観客席が開放されている。
保護者。
来賓。
卒業生。
多くの人が集まっていた。
流石は王国屈指の貴族学院である。
「すごい人ね……」
思わず呟く。
「お嬢様」
隣でエミリーが微笑んだ。
「毎年こうですよ」
「知っているわ」
実際見に来るのは初めてだった。
去年まではまだ入学していない。
だから少し圧倒されていた。
***
貴賓席へ案内される。
公爵家の娘である私の席は最前列だった。
演習場全体がよく見える。
対戦者の表情まで分かるくらいに。
「お嬢様!」
下から声がした。
見ればガレスだった。
大きく手を振っている。
「頑張りなさい」
「はい!」
元気な返事。
どうやら緊張はしていないらしい。
少し安心した。
***
開会式が始まる。
学院長の挨拶。
来賓紹介。
そして選手宣誓。
長い。
とても長い。
周囲の生徒達も少し退屈そうだった。
だが。
「それでは学院剣術大会を開始する!」
その宣言で空気が変わる。
歓声。
拍手。
熱気。
会場全体が沸き上がった。
***
一回戦。
二回戦。
三回戦。
試合は順調に進んでいく。
そして。
レオは圧倒的だった。
「そこまで!」
一回戦終了。
一分も掛からない。
「そこまで!」
二回戦終了。
やはり圧勝。
「そこまで!」
三回戦終了。
観客がざわめいた。
誰もまともに勝負になっていない。
「強すぎるだろ……」
「本当に一年生か?」
「Aランク冒険者ってあんなのなのか?」
私は小さく息を吐いた。
知っている。
強いのは知っている。
でも。
こうして大勢の前で見ると改めて異常だった。
***
その頃。
アレクシスもまた順調に勝ち進んでいた。
美しい剣。
正確な技術。
貴族らしい洗練された戦い方。
歓声も多い。
人気があるのも分かる。
そして。
当然のように。
二人は準決勝でぶつかることになった。
***
会場がざわめく。
ここが事実上の決勝戦。
誰もがそう思っている。
私もそう思っている。
「準決勝第一試合!」
審判が叫ぶ。
「アレクシス・フォン・ローゼン!」
歓声。
「レオ!」
さらに大きな歓声。
二人が演習場中央へ進む。
向かい合う。
礼。
木剣を構える。
そして。
不意に。
レオがこちらを見た。
「?」
一瞬だけ目が合う。
すると。
レオが小さく笑った。
あの日。
教会で笑った時と少し似ていた。
理由は分からない。
でも。
なぜか胸が高鳴った。
***
「始め!」
試合開始。
同時に。
アレクシスが飛び出した。
速い。
今までで一番速い。
今まで本気ではなかったのだろう。
鋭い踏み込み。
高速の連撃。
木剣同士が激しくぶつかる。
甲高い音が響く。
「おおっ!」
観客席がどよめく。
初めてだった。
レオが押されているように見える。
***
だが。
私は気付いた。
押されているのではない。
見ているのだ。
アレクシスの剣を。
動きを。
全部。
「……」
レオの目が変わる。
静かに。
ほんの少しだけ。
そして。
一歩。
踏み込んだ。
次の瞬間。
木剣が空を舞った。
アレクシスの剣だった。
誰も反応できない。
私も。
観客も。
アレクシス本人でさえ。
ただ呆然と見ていた。
「そこまで!」
決着。
会場は静まり返った。
やがて。
「うおおおおおおおおっ!」
歓声が爆発する。
拍手。
歓声。
どよめき。
演習場が揺れているようだった。
レオは勝った。
圧倒的な強敵を。
正面から。
打ち破った。
***
アレクシスは木剣を拾う。
悔しそうだった。
本当に悔しそうだった。
だけど。
最後に笑った。
「完敗だ」
レオも頭を下げる。
「ありがとうございました」
二人が握手を交わす。
その姿を見て。
私は少しだけ安心した。
いい勝負だった。
本当に。
***
そして。
レオが再びこちらを見る。
今度ははっきりと。
真っ直ぐに。
その視線の意味を。
私は知っている。
『優勝したら』
『お願いを聞いてください』
あと一勝。
あと一つ勝てば。
約束の日が来る。
なぜだろう。
決勝戦の前だというのに。
私の胸は。
そればかり気になっていた。
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