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初恋は最強の剣!~公爵令嬢に恋した平民は彼女の難題をすべて乗り越える~  作者: 涙目
第一章 学院編

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第十二話 大会前夜

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 学院剣術大会前日。


 朝から学院の空気はいつもと違った。

 いつもなら授業の話をしている生徒達が、今日は大会の話ばかりしている。


 優勝予想。

 組み合わせ。


 賭け事までは流石に禁止されているけれど、それに近い盛り上がりだった。


「本命はレオだろ」


「アレクシス様もいるぞ」


「決勝で当たってほしかったな」


 そんな声があちこちから聞こえる。

 私は窓の外を見ながらため息をついた。


 気付けば一か月。

 学院生活にも随分慣れた。


 そして。

 レオがいる日常にも。


「お嬢様」


 噂をすれば。


「おはようございます」


「おはよう」


 自然に返事をしてしまう。

 昔なら驚いていた。


 今は違う。

 隣に来るのが当たり前になっていた。


 それは少し危険なことのような気もする。


「緊張していますか?」


 レオが聞く。


「私が?」


「はい」


「するわけないでしょう」


 即答した。


 だが。

 レオは少しだけ笑った。


「そうですか」


 完全に信じていない顔だった。


***


 昼休み。

 私は中庭のベンチで本を読んでいた。


 読んでいたはずだった。


 一ページ。


 二ページ。


 三ページ。


 内容がまったく頭に入らない。


(落ち着きなさい、私)


 別に大会へ出るわけではない。

 なのに落ち着かなかった。


 その時だった。


「珍しいな」


 顔を上げる。

 アレクシスだった。


「本を読んでいるのにページが進んでいない」


「見ていたの?」


「少しな」


 失礼な人である。

 だが間違ってはいない。


「緊張しているのか?」


 またそれだった。


「してないわ」


「そうか」


 アレクシスが笑う。

 どうして誰も信じてくれないのだろう。


「明日だな」


「そうね」


「勝つつもりだ」


 真っ直ぐな言葉だった。

 レオと少し似ている。


 違うのに。

 どこか似ている。


「頑張りなさい」


「ああ」


 短い返事。

 そして少しだけ視線を遠くへ向けた。


「だが」


「なに?」


「負ける気もしている」


 私は驚いた。

 アレクシスがそんなことを言うなんて。


「それでも戦いたいんだ」


 静かな声だった。


「勝てない相手に挑む機会なんて、そう多くない」


 私は何も言えなかった。

 アレクシスもまた本気なのだ。


 だから。

 なおさら勝負が楽しみだった。


***


 放課後。

 教室には誰もいなかった。


 私は忘れ物を取りに来ただけだった。

 そのはずだった。


 だが。

 窓際に一人だけ残っている姿を見つける。


 レオだった。


「まだいたの?」


「いました」


 短い返事。

 珍しく本を読んでいる。


「勉強?」


「違います」


「なら何を?」


 レオは本を閉じた。


「明日のことを考えていました」


 私は少し意外だった。

 レオでも考え込むことがあるらしい。


「緊張しているの?」


 さっきと同じ質問を返してみる。

 すると。


「少しだけ」


 あっさり認めた。

 私は目を瞬いた。


「意外ね」


「そうですか?」


「あなたは何でも平気そうだから」


 レオは少し考える。

 それから窓の外を見る。


「怖いですよ」


 その言葉に私は黙った。


「負けるのは怖いです」


 初めて聞いた気がした。

 弱音ではない。

 でも本音だった。


「三年間頑張りましたから」


 静かな声。


「負けたら悔しいです」


 当たり前のことだった。


 なのに。

 なぜだろう。

 少し胸が締め付けられた。


 今まで無敵みたいに見えていたからかもしれない。


「でも」


 レオがこちらを見る。


「勝ちます」


 やっぱり最後はそれだった。

 私は思わず笑ってしまう。


「そう」


「はい」


「なら勝ちなさい」


 レオが目を見開く。


 まただ。

 最近この顔をよく見る。


 私が予想外のことを言うとこうなる。


「優勝して」


 少しだけ躊躇う。


 だけど。

 口に出した。


「約束を果たしなさい」


 街へ行く約束。

 大会優勝のご褒美。


 たったそれだけ。

 それだけのはずなのに。


 レオは少しだけ嬉しそうに笑った。


「はい」


 その返事は。

 今まで聞いたどの返事よりも力強かった。


***


 学院剣術大会。

 開幕まであと一日。


 そして私はまだ気付いていなかった。


 明日の勝敗が。

 ただの大会の結果ではなく。


 私自身の気持ちを大きく動かすことになることを。

お読み頂き、ありがとうございます。

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