第十話 約束のご褒美
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
学院剣術大会まで、あと二週間。
学院全体が少しずつ騒がしくなっていた。
どこの訓練場も生徒で埋まり。
教室では優勝予想が飛び交う。
そして、その中心にいるのは。
「レオが本命だろ」
「いやアレクシス様も負けてない」
「準決勝が事実上の決勝戦じゃないか?」
やはりその二人だった。
私は本を読みながら聞き流す。
聞き流している。
聞き流しているのだけれど。
「リリアナ様はどちらが勝つと思います?」
ルイーゼに聞かれた。
困る。
とても困る。
「知らないわ」
「本当ですの?」
「本当よ」
嘘だった。
少し気になっている。
かなり気になっている。
でも認めない。
***
昼休み。
私は一人で中庭を歩いていた。
たまには静かな時間も必要だ。
そう思ったからだ。
すると。
木陰で昼寝をしている人影が見えた。
「……」
レオだった。
木にもたれ掛かりながら眠っている。
珍しい。
あまり疲れた様子を見せない人だから。
私は少し近付いた。
よく見ると目の下に薄い隈がある。
服も少し汚れていた。
昨日の放課後は見なかった。
もしかして。
「冒険者の仕事?」
小さく呟く。
レオは学院生でありながら現役の冒険者でもある。
勉強。
剣術。
冒険者活動。
全部やっているのだ。
今更ながら、とんでもない。
「ん……」
レオが目を開いた。
「お嬢様」
「起こしたかしら」
「いえ」
身体を起こす。
少し眠そうだった。
「疲れてるの?」
「少しだけ」
意外だった。
この人が素直に認めるなんて。
「依頼が重なりまして」
「無理しすぎない方がいいわよ」
自然に言葉が出た。
レオは目を瞬いた。
「心配してくれるんですか?」
「当然でしょう」
また自然に出た。
言った後で少し恥ずかしくなる。
レオは少しだけ笑った。
「嬉しいです」
ずるいと思う。
そういう顔。
***
しばらく無言が続く。
風が吹く。
木の葉が揺れる。
穏やかな時間だった。
「お嬢様」
「なに?」
「大会で優勝したら」
またその話だった。
私は思わず笑う。
「まだ優勝していないでしょう」
「します」
即答。
本当にぶれない。
「それで?」
「お願いがあります」
前にも聞いた。
優勝したら一つ願いを聞いてほしいと。
「内容は決まったの?」
「決まりました」
私は少しだけ身構えた。
嫌な予感しかしない。
「なによ」
レオは少し考え。
そして言った。
「一緒に街へ行ってください」
私は固まった。
「……は?」
「以前約束しました」
「してないわよ」
「買い物です」
していない。
まだしていない。
絶対にしていない。
でも。
どこかで聞いたような内容だった。
「お嬢様と街を歩いてみたいです」
真っ直ぐだった。
ただそれだけ。
下心も。
打算も。
きっと無い。
「それがお願い?」
「はい」
「変な子ね」
「よく言われます」
よく言われるのね。
***
私は空を見上げる。
青空だった。
ほんの少し考える。
もし優勝したら。
本当に優勝したら。
一日くらい。
そのくらいなら。
「……考えておくわ」
レオが少しだけ笑った。
それだけで分かる。
嬉しいのだ。
本当に。
子供みたいに。
「ありがとうございます」
「だからまだ優勝してないでしょう」
「はい」
「アレクシスだって強いのよ」
「知っています」
「負けるかもしれないわ」
「負けません」
迷い無し。
やっぱりこの人は変だ。
でも。
その変なところが嫌いじゃない。
そんなことを思った瞬間。
私は慌てて首を振った。
違う。
そういう意味ではない。
断じてない。
「お嬢様?」
「なんでもないわ!」
レオが不思議そうな顔をする。
私は視線を逸らした。
胸の奥が少しだけ落ち着かない。
理由は分からない。
たぶん。
本当にたぶんだけれど。
私はもう。
三年前の約束を少しだけ楽しみにしているのかもしれなかった。
お読み頂き、ありがとうございます。




