第九話 初めてのお願い
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
最近、少し困っていることがある。
レオが隣にいるのが当たり前になってきたことだ。
朝。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう」
昼。
「その問題はこう解きます」
「分かってるわよ」
放課後。
「一緒に帰りますか?」
「たまたま方向が同じなだけよ」
こんなやり取りが増えていた。
良くない。
とても良くない。
公爵令嬢として。
そして何より、自分のために。
***
そんなある日。
学院の掲示板に人だかりができていた。
「発表されたぞ!」
「剣術大会の組み合わせだ!」
来月の学院剣術大会。
本番の組み合わせである。
私も気になり、人混みに近付く。
ルイーゼもいた。
「あっ」
「どうしたの?」
彼女が表を指さす。
「レオさん」
名前を探す。
あった。
レオ。
一回戦。
二回戦。
三回戦。
順当に勝てば。
準決勝。
「アレクシス様と当たりますわ」
なるほど。
周囲もざわついている。
実質的な優勝決定戦と言われているらしい。
まあ、その気持ちは分かる。
***
「お嬢様」
後ろから声。
振り返る。
レオだった。
「見ましたか?」
「見たわ」
「アレクシスと当たります」
「そうね」
「勝ちます」
相変わらず迷いがない。
私は少し笑った。
「そう」
「はい」
「頑張りなさい」
すると。
レオは少し驚いた顔をした。
初めて見たかもしれない。
「応援してくれるんですか?」
「当然でしょう」
思わずそう答えた。
だって。
何だかんだ言っても。
三年間努力して。
本当にここまで来たのだから。
応援くらいする。
「ありがとうございます」
レオが笑う。
なんだろう。
その顔を見ると、少しだけ胸が温かくなる。
***
その日の放課後。
私は学院図書館で本を読んでいた。
公爵家の娘として。
勉強は怠れない。
ページをめくる。
静かな時間。
嫌いじゃない。
すると。
「リリアナ嬢」
アレクシスだった。
最近よく遭遇する。
「こんにちは」
「少し時間はあるか?」
「ええ」
アレクシスは椅子を引いた。
「剣術大会のことだ」
やはりその話か。
「勝つつもりよね」
「もちろんだ」
即答だった。
「だが」
少しだけ表情が変わる。
「正直、厳しいとも思っている」
私は驚いた。
アレクシスは自信家だ。
その彼が弱音にも似た言葉を口にするなんて。
「そんなに?」
「強い」
短い一言。
「今まで努力してきた人間を何度も見てきた」
アレクシスは窓の外を見る。
「だが彼は少し違う」
珍しく真面目だった。
「剣だけではない」
「勉強も」
「ああ」
満点。
首席争い。
全部知っている。
「だから面白い」
アレクシスが笑う。
「久しぶりに本気で勝ちたいと思えた」
その言葉には嘘がなかった。
私は少しだけ安心した。
この二人は案外良いライバルなのかもしれない。
***
帰宅前。
校門へ向かう途中だった。
「お嬢様」
レオが待っていた。
「何をしているの?」
「待っていました」
さらっと言う。
もう驚かない。
「何かあったの?」
「お願いがあります」
珍しい。
レオからお願い。
初めて聞いた気がする。
「内容によるわ」
「剣術大会です」
やっぱりその話だった。
「もし優勝したら」
「もし?」
「優勝したら」
言い直した。
自信満々だった。
「その時は、一つお願いを聞いてください」
私は目を瞬いた。
お願い?
「内容は?」
「まだ決めていません」
「決めてないの!?」
「優勝してから考えます」
意味が分からない。
でも。
なぜだろう。
少し気になった。
「変なお願いだったら却下よ」
「分かりました」
「公爵家に迷惑がかかるのも駄目」
「もちろんです」
「非常識なのも駄目」
「大丈夫です」
本当かしら。
かなり不安である。
だが。
「……優勝できたらね」
そう答えると。
レオは少しだけ嬉しそうに笑った。
「約束です」
その顔を見た瞬間。
なぜか。
本当に少しだけ。
優勝してほしいと思ってしまった。
そんな自分に気付いて。
私は慌てて視線を逸らした。
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