表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/37

別れを告げて

「迷惑だと言っている。それを受け入れなかった、貴様が悪い」


 さすがに、ここまで言われて自覚できないほど、私も馬鹿ではない。

 彼にとってこれまでの行動は、本気でありがた迷惑でしかなかったのだろう。


「……私のこと、ほんとに嫌いだったんだ……」


 私はもっと早くに、気づくべきだったのだ。

 彼のために一生懸命頑張っていたことはすべて、無駄でしかなかったのだと……。

 そうしたら、お互いに傷つかずに済んだのに……。


「ごめんね。気づかなくて。ずっと、照れ隠しだと思ってたの。レオドールは、私を無理に追い返さなかったし……」


 何度も嫌だと口にしているのに、迫ってくる。

 彼からしてみれば、恐ろしくて仕方なかっただろう。

 私は深く反省し、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「でも。本気で嫌がっているなら、もう辞めるね。今まで、本当に……」


 自覚のないいじめっ子って、こんな感じなのかな……。


 自分が知らず識らずのうちに加害者になっていると気づいた以上、レオドールのそばにはいられない。

 どれほど謝罪をしたとしても、許されない大罪を犯したのだから。


 私達は、言葉を交わすべきじゃない。

 心の底からそう思ったからこそ、縁を切ろうと試みた。

 だけど……。


「この程度で謝罪をして身を引くくらいなら、最初から手を差し伸べるな」


 彼はそれを、許してはくれなかった。


 私は何を言われているか理解できなくて、呆然とレオドールを見上げる。

 すると、目を合わせた彼もこちらが状況を把握できていないと、すぐに認識したのだろう。

 唇を噛み締め、忌々しそうに吐き捨てる。


「貴様の顔を見ているだけで、苛立って仕方がない……!」

「な、何それ? レオドールが言ったんじゃん! もう二度と、会いに来るなって!」

「そこまでは言ってない」

「はぁ? 嫌いなんでしょ? 顔も見たくないんでしょ? だから私は、あんたの望み通りもう二度と関わらないって……!」

「それが無責任だと、なぜ気づかない!」


 レオドールの主張にはどうしても納得できなくて、言い合いになった。

 彼の口にする内容は、支離滅裂だ。


 嫌なのに、離れないでほしい。

 こちらが差し伸べた手を引っ込めるのは、無責任だと怒りを露わにする。


 彼は私に、どうしてほしいんだろう……?


「いや。だから……」


 その答えを探るべく、必死に言葉を紡ぐ。

 だが、彼も黙ってはいない。

 こちらを鬼の形相で睨みつけ、低い声で吐き捨てる。


「責任を取れ」

「なんの?」

「中途半端に手を差し伸べたのなら、この程度で根を上げるな。最後まで、そばにいろ」

「矛盾してない? 結局、どっちなの?」


 彼の望みは、いくら考えても理解できない。

 だけど……。

 レオドールの唇から答えが紡ぎ出されたことで、ようやくなんとなく悟ることができた。

 こいつは結局、私が離れていくのが嫌なんだって。


「自分で考えろ」


 それがどうしてなのかは、教えてもらえなかった。


 ――本当は、ここで「わかった」と納得するべきだったんだろう。

 でも、それだけはプライドが許さなかった。

 なんだか、負けたような気がしたから。


 苛立った結果、つい本心を口にしてしまう。


「なんなの、あんた。意味分かんない……」

「それは、こちらの台詞だ」


 普段の調子を取り戻した彼は、こちらから視線を逸らす。


 その間に、私は先ほどあいつが見せた行動の分析を行った。


 嫌いだけど、そばにいてほしい。

 それってつまり、ツンデレ?

 普段の辛辣な態度はツン期で、今はデレ期なのかも!


 ほーん。なるほどね~。

 もしもそうだったら、私に対する心ない言葉は全部、好きの裏返しになる。

 けど……。

 本当に、この考察は合っているのだろうか?


 前世の記憶を合算しても、こんなあまのじゃくと会話した覚えなんてない。

 だから……。

 どれが正解なのか、現段階ではよくわからなかった。


「レオドールって、もしかして私のこと……」

「忌々しい兄の許嫁になど、好意を抱くものか」

「えぇ……」


 その答えを探るべく、ストレートに問いかけてみた。

 でも、それは彼のツン期を引き出す地雷質問だったらしい。


「おぞましい妄想を巡らせるな。不愉快だ」


 レオドールはこちらへそう言い放つと、胸元で両腕を組んで私を拒絶した。


「はいはい。わかりましたー。剣術しか取り柄のない脳筋は、これだから……」

「少し魔術が得意だからって、調子に乗るな」


 ――ほんと、素直じゃないんだから。


 私を見下す紫色の瞳に受けて立つと、2人の間にはバチバチと火花を散る。

 この睨み合いは、どちらかが視線を逸らすまで、永遠に続くだろう。


 ――絶対に負けられない戦いが、勃発した瞬間だった。


「あれ? エルネット。ついに、レオドールと仲良くなれたんだね」


 一歩も引かない私達の攻防戦は、思わぬ乱入者によって終わりを告げる。


 いつまで経っても待ち合わせの場所にやってこない私を見かねて、アルベールが迎えに来たからだ。


 ――そろそろ子どもは、お家に帰る時間だからね。


 弟と許嫁の姿を目にして嬉しそうな声を耳にした私達は、ほぼ同時に彼を振り返る。


「どこが!?」

「貴様の目は節穴か」

「わぁ。息もぴったりだ」


 こんな発言で喜んでもらっちゃ、困るんだけど……。

 納得できずに眉を顰めれば、アルベールはお腹を抱えて笑い始めた。

 どうやら、その表情すらもレオドールとお揃いになっていたようだ。


「ちょっと! 真似しないでよ!」

「言いがかりを、つけてくるな」

「私は事実しか、言ってない!」

「ふん。騒ぎ立てるしか脳のない、じゃじゃ馬が……」

「むきー!」


 せっかく私が、酷い扱いを受けるレオドールを救ってあげようと思ってたのにさ! まさか、恩を仇で返されるなんて思いもしなかったよ!


 苛立ちを隠せぬまま地団駄を踏んでいれば、苦笑いを浮かべたアルベールが話に割って入った。


「今日はこれくらいにしておきなよ。また、3か月後に会おう」

「う、うん……」


 許嫁の言葉に従いたい気持ちは、山々だ。


 しかし――。


 このままあいつと別れて、本当にいいのかな?


 急に心配になって、私はレオドールの顔色を窺った。


 けれど……。


 兄の姿を見捉えたあとの彼は、また私と心の距離が離れてしまったようだ。

 胸の前で両腕を組み、ツンツンモードに移行している。


「レオドール! またね!」


 どうにかあいつの心を、こっちに引き戻せないかな?

 そう思い立って、笑顔で声をかけたけど……。

 私に背を向けて歩き出した彼は当然のように挨拶を無視すると、その場を去ってしまった。


 ――こうして私達の奇妙な関係は、ようやく始まった。

 だけど……。


 ――それから、9年後。

 双子の兄が口にした許嫁解消と弟の求婚によって、終わりを告げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ