拒絶
「私はまだ、2人のことを何一つ知らないから。これからたくさん会話をして、もっと仲良くなりたい!」
「断る」
「ええー。なんでよー」
でも、レオドールの反応は思わしくない。
考えるまでもなく、断られてしまった。
思わず不満を露わにすれば、辛辣な言葉をぶつけられた。
「俺には貴様のような脳天気と、長々と言葉を交わす暇はない」
「何それ? 酷い!」
「レオドール……。それは、言い過ぎだよ」
「黙れ!」
目に余る弟の言動に、さすがのアルベールも黙っていられなくなったようだ。
ずっと静観していた許嫁が口を挟めば、すぐさま彼は私達に一喝した。
「先に産まれただけですべてを手にした貴様の顔など、見たくもない!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「離せ……っ!」
「きゃ……っ!」
このままじゃあいつが、最悪な状態でアルベールと仲違いをしてしまう。
それは駄目だと、焦ったのがよくなかったんだろうね。
とっさに彼を掴んだ手は、勢いよくあいつに振り払われる。
そして――。
ひっくり返った私は、土の上に転がった。
「エルネット!」
アルベールはすぐさま私に寄り添い、抱き起こそうとしてくれる。
だけど……。
今すぐに気遣うべきは、こちらじゃない。
どう考えても、弟の方だった。
「大丈夫かい!?」
レオドールは、兄の手を借りて立ち上がる私の姿を目にして、明らかに落胆しているような表情を浮かべた。
家族よりも許嫁を取ったと、認識したのだろう。
彼は、様々な感情が入り混じった言葉を吐き捨てた。
「俺は、悪くない……!」
2人の仲を取り持とうとした結果、不仲を加速させたなんて――そんなの、絶対に認めたくなかった。
どうにか、関係を取り持たなきゃ。
焦った私は許嫁よりも弟を優先するべきだと考え、兄から手を離す。
そして――。
なんのダメージも受けていないと証明するように、スクリと立ち上がって笑顔を浮かべた。
「うん! こんなの、全然へっちゃらだよ! 驚かせてごめんね?」
この状況で私が口にする言葉は、彼に対する文句。
『突き飛ばすなんて、酷い!』
そんな内容に違いないと思い込んでいたのだろう。
レオドールはまさかの言葉が自身に向けられたのを耳にして、化け物を見るような目でこちらを凝視していた。
「な、なんなんだ……。貴様は、一体……」
ほんと、失礼な人だなぁ。
そんなに怯える必要、ないのにね?
これはもう一度名乗って、私の存在を刻み込んでもらうしかない!
「未来の天才魔術師! エルネット・ヨトシーハだよ! これからよろしくね!」
こちらの自己紹介を聞いたあと、彼は小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
その後彼は、苛立ちを隠しきれない様子で足を動かした。
「ふん……っ。誰が貴様のような世間知らずと、交流を深めるものか!」
レオドールはそう吐き捨てると、土の上に放り投げてあった模造刀を手に取る。
そうしてそのまま大股開きで、この場を去ってしまった。
「あ、行っちゃった……」
「エルネット……。ドレスが……」
「うん。こんなの、へっちゃらだよ!」
「ごめん……。弟が……」
「気にしないで! 私が強引に、距離を縮めようとしたのが悪いから!」
弟の去り行く姿を何か言いたげに見つめていた兄は、すぐさま私のドレスに付着した土を手で叩き落としてくれる。
彼の申し訳なさそうな表情を目にした私は、すぐさま問題ないと笑い飛ばした。
「もし、君が良ければ……なんだけど……」
アルベールが言いづらそうに呟いた言葉の続きは、最後まで紡がれなくとも容易に想像がつく。
諦めずに、手を差し伸べ続けてほしいって言いたいんだよね?
「うん。もうちょっと、頑張ってみる!」
「ありがとう」
「どういたしまして!」
――こうして私達は、レオドールと仲良くなろう大作戦を決行し始めた。
「やっほー!」
だけど……。
簡単に仲良くなれたら、苦労はしない。
3か月間は無視。
「ほんと、強情」
「黙れ」
6か月後は3文字の言葉を引き出し――。
「早くデレてくれないと、ほんとに会いに来るのを止めちゃうぞー」
「失せろ。この自意識過剰女が……」
9か月後には、罵倒のレパートリーが増えた。
「ねぇ。素直になる準備はできた?」
「いいご身分だな」
――そして、事件は12か月後に起きる。
「許嫁をほっぽり出して、弟と交流を深めようとするなど……。恥ずかしくないのか」
レオドールは相変わらず、普通の令嬢だったら泣いちゃうのではないかと心配になるくらいに険しい表情で、私にそう言い放った。
――私は普通の令嬢じゃないから。
こんなの全然、へっちゃらだけどね!
ただ……。
私も、人間だから。
イラッと来るのは抑えられなくて、だんだんとこちらの態度も辛辣になっていく。
「何それ。まるで私が、浮気してるみたいじゃん!」
「俺は、事実を述べたまでだ」
「明らかに、悪意があるでしょ。私がレオドールにあれこれ話しかけるのは、2人の仲を取り持ちたいから。アルベールも、了承済みだよ!」
変な言いがかりをつけるのだけは、やめてほしい。
そう強く感じた結果、ムキになって言い返したのがよくなかったのだろう。
「俺の名を呼ぶな。不愉快で、仕方ない……」
彼はそう吐き捨てると、黙ってしまった。
――気まずい沈黙が、2人の間に流れる。
こう言う時って、どんな話をすればいいの?
レオドールは、どうしたら機嫌を直してくれるんだろう……?
その答えに辿り着くため、必死に思考を巡らせる。
だけど、どんなに考えたところで導き出せない。
だって私は、彼のことを何も知らないから。
「貴様はいつも、自分のことばかりだな」
こちらがまごついている間に、彼は冷たく吐き捨てた。
「俺のためを思って行動しているふりをしながら、結局はアルベールに気に入られるための踏み台にしか思っていないくせに」
「そんなこと……!」
「貴様はただの、偽善者だ」
レオドールだけが苦しくてつらい思いをするのは、間違っている。
心の底からそう思っているからこそ、彼の置かれた状況を改善したくて提案したのに……。
アルベールの口から、私を責める発言ばかりが飛び出してくるなんて思いもしない。
「どれほど言い寄って来たところで、時間の無駄だ。俺が貴様に、心を開くことはない」
だから余計に、ショックが大きかった。
レオドールはこのままずっと、1人ぼっちのほうがよかったの?
私が彼のためにやっていることは、本気で迷惑だと思われていたんだ……。
「なんでそんな、酷いことを言うわけ? 私が嫌がるあんたに、何回も会いに来たから?」
「そうだ」
「しつこくしなければ、仲良くなれた?」
「あの男の許嫁である限りは、交流など深められるはずがない」
「なんで? 私はアルベールの許嫁じゃなきゃ、こうやって王城に出入りすらできないんだよ! レオドールにだって、会えなくなっちゃうのに!」
それを認めたくなくて、どんどん感情的な言葉が溢れてくる。
どうやって止めればいいのかすらも、わからなくなっていた。
――だから、かな?
心の奥底から飛び出てきた魂の叫びによって、情緒不安定になってしまった。
私の瞳には、柄にもなく涙が滲む。
それを目にしても、レオドールは険しい表情を変える様子がない。
容赦なく、私を拒絶し続けた。




