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理解不能

「あんたには、関係ないでしょ?」

「ある」

「なんでよ!」


 でも――。

 彼は、まったく怯む様子を見せなかった。

 なんなの? こいつ。

 そこは、即答する場所じゃないでしょ!?


 そんな思いに駆られながら訝しげな視線を向けたところ、レオドールは小馬鹿にしたように、鼻を鳴らして吐き捨てる。


「王太子に捨てられた令嬢など、嫁の貰い手はいないだろう」

「私は愛し合う男女の恋を応援するため、身を引いたの! かわいそうな女の子扱い、しないで!」

「物は言いようだな」


 彼は呆れたように肩を竦めると、私の瞳を真っ直ぐに見下した。

 駄々をこねる子どもに、みっともないと蔑む父親のような視線を向けられて、黙ってなどいられるはずもない。


 ――なんでこっちが、馬鹿にされなきゃいけないわけ!?


 ふざけるなと喉まで出かかった言葉をぐっと止め、レオドールに促した。


「な、何? 言いたいことがあるなら、はっきり言えば?」

「いいだろう」


 しどろもどろになりながらも、その視線に受けて立つ。

 すると、レオドールは胸を張って、自信満々にある提案を持ちかけた。


「俺が、もらってやる」


 ――今、なんて言ったの?


 そうやって聞き返したくなるくらい、こいつが私に告げたのは、到底受け入れがたい内容だった。


 アルベールと許嫁を解消した以上、私は現在フリー。

 公爵家の令嬢として、そう遠くない未来に誰かと婚約を命じられる可能性が高い。


 天才魔術師の血を受け継ぐ子を欲しがる貴族は、山ほどいるからだ。


 王太子に捨てられた傷物令嬢なんて汚名は、簡単に吹き飛ばせる。

 それほどの価値が、私にはあるはずなのに……。

 なんで私が、こいつなんかと結婚しなきゃいけないわけ!? あり得ないんだけど!


「私が? あんたに? 嫁ぐ?」


 自身の胸元を指差ししたあと、レオドールを指し示し、首を傾げる。

 彼は間違いないと証明するように、低い声で肯定した。


「そうだ」

「兄のお下がりとか、恥ずかしくないの?」

「気には食わん」


 こいつは私が初めて顔を合わせた時から、兄を一方的に嫌っている。

 だから、アルベールの元許嫁を娶るなんて屈辱でしかない。

 こんな提案をするなんて、プライドが、許さないはずなのに……。

 どうして、こんな提案をするんだろう?


 ――なんかの罰ゲームなら、早めに撤回してもらわなきゃ。


 私はこの最悪な状況を変えるべく、さっそく行動に移した。


「だったら……」

「他の男に奪われるより、よほどマシだ」


 しかし、レオドールはこちらの考えを、全てお見通しだとばかりに吐き捨てた。

 普段の彼だったら絶対に選択しないであろう決断に、私は思わず問いかけてしまった。


「本気で言ってんの?」

「俺が冗談を言うような男に、見えるのか」

「私に対しては、ずっと不誠実だったじゃん」


 どうやら彼は私の指摘を受け、初めて自覚をしたようだ。


 そんなこと、ある?


 ――普段は超絶、無口な癖に。

 私に対してだけは揚げ足取りや嫌味ばかりを口にして、好感度を下げてきた。

 そんな 10年間の積み重ねが私達を不仲にさせていると、気づいてなかったなんて……あり得ないんだけど……。


「今さら好きです。結婚を前提に婚約してくださいとか、了承できるわけがないよ」

「なぜだ」


 私が呆れの色を隠す気にもならずに肩を竦めたところ、レオドールに難色を示された。

 彼はどうやら、本当にこちらがそう思う理由がわからないようだ。

 そのため、すぐさま問いかけてきた。


 ――これは、大変なことになったかも……。


 あいつが負けず嫌いなのは、長い付き合いの中で重々承知している。

 最悪の場合、説得しきれず押し切られてしまうだろう。


 ――そんなの、絶対に嫌だ!


 私は話の通じない男をどうにか自分のペースに引き込むべく、言葉を重ねた。


「私の話、ちゃんと聞いてた?」

「俺の肩書が、第2王子だからか」

「あんたが平民でも、結婚なんて考えられないけど」

「王太子なら、いいんだな」

「はぁ? あんたがレオドール・リスティムルクである限り、結婚なんて絶対無理」


 アルベールが許嫁になった。

 幼いころに両親からそう紹介されて、文句も言わずに黙って受け入れたのは……王太子だからじゃない。

 彼が、温厚な性格だったからだ。


 ――王太子なら私を、大切にしてくれると思った。


 結局、互いに恋愛感情は芽生えなかったけどね。

 今までも、これからも。

 いい友人として、つかず離れずの関係を保てていたのだ。

 彼が妹と恋仲になっていなければ、今頃私達は許嫁として、並んで歩いていたはずだった。


「肩書きなんて、どうでもいいよ」


 ――好きだったわけでもないのに。


 未練たらしく何度もアルベールの姿を思い浮かべてしまうあたり――なんだかんだ言っても、彼に入れ込んでいたのかもしれない。


 失って初めて気づいた不思議な感情に感慨深い気持ちでいっぱいに包まれていると、どことなく双子の兄の面影を感じるレオドールの姿が視界いっぱいに広がった。

 彼はすぐさま、納得できないとばかりに声を震わせる。


 その後、私に問いかけた。


「貴様はなぜそこまで、俺を嫌う」

「そんなことすらわかんないのに、よく求婚なんてしたよね」

「答えろ」


 こちらが小馬鹿にしたような口調で声を発したら、怒気を含んだ命令口調が返ってくる。

 その態度を見た瞬間、呆れてものも言えない。


 こいつはいつも、こうなんだよね。

 兄のアルベールとは、本当に真逆の性格をしている。


 自分勝手で、傲慢。

 そう言うところが、嫌いなんだってば!


「私達は、互いの名前を呼ばない。それが今の関係を、表していると思うんだけど」


 レオドールは、貴様とか君。

 私からは、あいつとかあんた。


 幼いころから交流があるのに、下の名前で呼び合わない。

 そんな男女が結婚するとか、あり得ないでしょ?


 脈なしなのは、明らかなんだから。

 さっさと私の目の前から、消えてくれないかな……。


 そんな願いを隠しきれずに彼の様子を窺っていると、なぜかレオドールはしっかりと頷く。


 その後、ピントがずれた発言をした。


「これからは極力、貴様の名を呼べばいいんだな」

「それが結婚の条件ってわけじゃ、ないからね?」

「違うのか……」


 レオドールは、驚きと落胆の色を隠せない様子でぽつりと呟いた。


 ――もう、わけわかんない。

 こいつを説得するなんて、私には無理だ。


 そう、諦めそうになる気持ちをどうにか押し留める。

 このままでは、一生こいつのペースに巻き込まれたまま平行線だ。


 どうにかして、抜け出すためには――冗談めかして、変化球を打ち込むしかない!

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