表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢から天才魔術師になったら、執着ツンデレ系の第2王子から求婚されました! 私達、犬猿の仲ですよね?  作者: 桜城恋詠
8・女性向け小説のヒロインから、悪役令嬢に立場を変えて (マリンヌ)
PR
30/37

大好きな人からの申し出

 いつも元気で、明るい。

 いろんなことをたくさん教えてくださる、大好きなお姉さま。


 そんな彼女を憎むようになったのは、5歳の時。

 前世の記憶を、思い出したからだ。


 ――わたしの名前は、白河真凛(しらかわまりん)

 幼い頃に心臓病を患い、入退院を繰り返していた。


 学校にも満足に通えない私が唯一楽しめるのは、お姉ちゃんが買い与えてくれた本だった。


 何度も何度も、擦り切れるまで読み返した。

 その結果、自然と小説の台詞を一言一句違わず暗記するまでにハマった。


 天才魔術師のマリンヌ・トヨシーハが、目麗しいイケメン達に愛される、ハートフル学園ストーリー。


『いいなぁ。私も、ヒロインになりたい……。みんなから、愛されたい……』


 ――過去の私が、そう願ったせいだろう。


 日本では成人するまで、生きられなかった。

 けれど……。

 神様がわたしを女性向け小説のヒロインに、転生させてくれたんだ……!


 前世で苦しんだ分だけイケメン達に愛を注がれて、幸せに暮らせる。

 そんな未来を授けてもらえたのなら――。


 わたしは原作の雰囲気を壊さぬように、ヒロインとして完璧に立ち回って見せる。

 そう、決めていた。


 なのに……。


「お、お姉、さま……?」


 ――ヒロインの役割を、お姉さまに奪われるなど夢にも思っていなかった。


 ――だって。

 エルネット・トヨシーハは、女性向け小説のお邪魔キャラ。

 ヒロインに立ちはだかる、敵でしょう?


 なのに、どうして。

 お姉さまはヒロインの代わりに天才魔術師として目覚め、黒魔術を解呪しているの?


「エルネット様は凄い!」

「天才魔術師の誕生だ!」

「ぜひ、王子達の婚約者に!」


 本来ならばその賞賛は、私が得るべきはずのものだったのに……!


 ――許せなかった。

 妬ましかった。


 わたしの役目だけではなく、メインヒーローであるアルベール様の許嫁の座に収まったお姉さまが。


 ずるい。ずるい、ずるい、ずるい。


 わたしはこの女性向け小説の内容を、完全に把握していたのに!

 すべてを覚えている、神にも等しい存在はわたしだけのはずでしょ!?

 悪役令嬢如きに先を越され、遅れを取るなど冗談ではなかった。


 今すぐアルベール様に相応しいのはわたしだと、声を張り上げたい。

 だけど……。

 魔力の才能が未覚醒な状態では、どうしようもできなくて……。

 イベントをお姉さまに奪われてしまった以上、無力なか弱き少女でい続けるしかなかった。


 アルベール様に、拘らなくてもいいじゃない。

 攻略対象は、あと4人もいる。


 そう何度も自分に言い聞かせて諦めようとした。

 けれど――。

 駄目だった。


 小説は何度も読み返せるが、わたしの人生は一度きりしかないとわかっていたからだ。


 ――どうしよう。


 わたしはまた、誰にも愛されずに命を落とすの?


 ――そんなの嫌だ。


 考えなきゃ。

 ここから逆転勝利を掴み取るために必要な道筋を。


 考えて、考える。

 二度と不相応にもアルベール様へ手を伸ばさぬよう、お姉さまを完膚なきまでに叩きのめす方法を――。


「そうだ……」


 ――悪役令嬢は、病弱だった。


 産まれ持った魔力の才能こそ素晴らしいものだったが、それを自由自在に扱えなければ意味がない。

 両親から愛を受けずに育った彼女は人生に絶望し、黒魔術に酔狂していく。


「わたしにはまだ、その役がある……」


 黒魔術の解呪能力が開花したヒロインは、魔法学園でめきめきと頭角を表す。

 その座をお姉さまに奪われたのならば、わたしが空いた隙間に入り込めばいい。


 ――悪役令嬢が非業の死を遂げたのは、性格が最悪だったせい。

 黒魔術に飲み込まれるほど、弱い心の持ち主だから。


「わたしなら、ハッピーエンドを掴み取れるはず……」


 だってわたしは、マリンヌ・トヨシーハ。

 女性向け小説のヒロインとして、転生したんだもの。

 どれほどこの身が穢れようとも、主人公補正でどうとでもなる。


「さぁ……。闇の魔力よ。わたしの想いに応えて。お姉さまの代わりに、この世界に黒魔術を蔓延させる、魔女になってあげる……!」


 ――こうして私は健康と引き換えに、黒魔術の才能に目覚め……。

 この世界で悪役令嬢として暗躍する、魔女になった――。


 *


 どうして、どうして、どうして。どうして!


 わたしはずっと、この時を待っていた。

 女性向け小説の原作が始まるのは、お姉さまが18歳の時。

 そしてわたしが、15歳の誕生日を迎えた年だ。


 ――学校には当然、入学できなかった。

 思った以上に黒魔術の副作用が大きく、身体が言うことを効かないのだ。


 学園生活などできるわけもなく、わたしはトヨシーハ公爵家のベッドでほとんどの時間を過ごす。


 嫌だ。嫌だ、嫌だ。嫌だ。

 このまま愛する人と言葉を交わす機会もなく、命を終えるなんてありえない。

 わたしは、生き続けたい。


 この世界でアルベール様から溺愛されることこそが、己の幸福であり、使命なのに……!


 どうして思い通りに、いかないの?


 わたしからヒロインの座を奪ったお姉さまは魔法学園の入学を免除されて、今は魔法ラボで働いている。

 そんな話、わたしの知っている女性向け小説のシナリオには存在しなかった!


 ――お姉さまは予定調和をめちゃくちゃにする、天才だ。


 始末しなきゃ。

 早く、早く、早く、早く……。

 そうしなければ、わたしがいつまで経っても幸せになれない。


「ごほ……っ。ごほ、ごほ……」


 ――最近、日中に起きているのすらもつらくなってきた。

 これは闇の魔力に身体が侵食を受けている証拠だ。

 わたしはおそらく、長くはないだろう。


 このままじゃ、アルベール様とお姉さまが結婚してしまう!


 そんなの、絶対に嫌だ。

 彼は、わたしのものなのに。

 ヒロインの座を奪い取っただけで、どうして満足してくれないの?


 わたしはお姉さまに、直接文句を言ってやりたい気持ちでいっぱいだった。


 けれど……。


 言うことを聞いてくれない身体を無理やり引き摺って彼女の元へ向かったところで、ただ体力を消耗するだけだ。

 なんの意味もないとわかっていたから、実行はしない。


 そんな暇があるなら、この世界に黒魔術を蔓延させるべきだ。

 お姉さまを間接的に始末したほうが、よっぽど有意義な時間を過ごせる。

 そう、思っていた。


 ――あの時までは。


「マリンヌ。僕の、婚約者になってほしい」


 ある日突然姿を見せたアルベール様は、わたしにそう提案した。

 歓喜に打ち震えた身体を鎮めるために拳を強く握りしめ、わたしは事実確認のためにあの女の話題を口にした。


「お、お姉さま、とは……?」

「許嫁は、解消してきた」

「どう、して……」

「いろいろあってね」


 愛する人はどこか疲れたように口元を綻ばせて、肩を竦めた。

 そんな彼の姿を目にしたわたしは――。

 お姉さまはなんて酷い人なのだろうかと、激昂した。


 わたしの大好きなアルベール様を傷つけた、最低最悪な人間。

 あんな女と許嫁になったのが、間違いだったのだ。


「駄目、かな……」


 彼がこちらへ申し訳なさそうにお伺いを立てる姿を目にし、ようやくわたしの時代が来たのだと確信した。


 苦しくて、つらくて。

 どれほど悲しくても――ずっと耐え続けていて、本当によかった!


「いいえ……! わたしはずっとアルベール様を、お慕いしておりました……! その申し出……っ。ありがたく、受け入れます……!」


 わたしは瞳から大粒の涙を流すと、差し出された彼の手を取った。

 ――アルベール様の心が今もなお、お姉さまに心を囚われているのだと気づかぬまま……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ