おすすめ
王家は王太子であるアルベールにだけ帝王学を学ばせ、この国を背負うものとして素晴らしい立ち振舞いを期待した。
兄よりも数分遅れて産まれたレオドールは、王家にとってはほとんど興味関心を持たれない存在だったのだろう。
『俺は影だ。産まれないほうがよかった』
そんなふうに、己を称していたくらいだ。
圧倒的なコミュニケーション不足によって自分を卑下する2人は、案外似た者同士なのかもしれない。
――いっそのこと、このレオドールとマリンヌがくっつけばよかったのに。
今まで通りの関係性を望んでいるからこそ、余計に本人達の気持ちを無視した自分本意な考えを思い浮かべてしまう。
――このままでは、いけない。
私は我に返り、優しく囁いた。
「落ち着いて、私はいつだって、マリンヌの味方だよ」
「本当ですか……?」
「うん」
だからどうか、冤罪をでっち上げて処刑だけはしないで!
不安そうにこちらを見つめる桃色の瞳が、こちらの真意を探るように揺らいでいる。
ここで私を信じられないとあの子が決定づければ、レオドールから逃げた意味がなくなってしまう。
――最悪の場合はこの四面楚歌な状況を打破するため、あいつに助けを求める羽目にもなりかねなかった。
それだけは、勘弁してほしい。
そう願いながら、私はいつまで経っても言葉を口にしない妹と、気まずい時間を過ごした。
「もう二度と、アルベール様に近づかないで頂けますか……?」
それはちょっと、無理があるよね?
だって私たちは、許嫁ではなくなったけど友達のままだから。
どうにか、もっと違う条件を提示してくれない?
そんなふうに引き攣った笑みを浮かべて言えるほど、私も図太くはなかった。
でも、この状態でわかったと頷くのも怖い。
こっちが事情を説明せずにアルベールを避ければ、異変に気づいた相手が一体何ごとなのかと、声をかけてくる危険性があるからだ。
言葉を交わさなくても、あちらから言い寄ってきた状態でも、妹の認識ではアウト判定を食らうだろう。
ついでにレオドールも嫉妬心を拗らせて、何をしてくるかわからないともなれば、私にはデメリットしかない。
まるで、爆発寸前の爆弾が、山ほどこちらに向かって投げつけられたような気分だ。
――これ、詰んでるよね?
アルベールを起点にして、複雑に4人が絡み合っている。
そのせいで、彼の行動次第ではあっちもこっちも大騒ぎになる状態になってしまった。
――もう、勘弁してよ……。
私は泣き言を口にしたい気持ちでいっぱいになりながら、瞳を潤ませる妹の様子を目にして狼狽えた。
「お姉さまはまだ、殿下のことが好きなんですね……」
「ち、違うよ! 落ち着いて!」
「では……。第2王子が、好きなのですか……?」
「いや、それも……」
「やっぱり、お姉さまは酷い人です……」
妹がいつからアルベールと愛し合っているのかまでは、知らないけどさぁ……。
ここでレオドールが好きなんて口を滑らせでもしたら、きっと自分の知らないところで噂が回るに違いない。
いずれあいつの耳に入り、大喜びした彼が何をするかわかったもんじゃない!
そんな光景が容易に想像できるからこそ、どれほど罵倒されようとも、絶対に好きだと認めるわけにはいかなかった。
「2人に愛されても、まだ足りないなんて……」
「ご、誤解だって! 何かの、間違いだよ!」
「本当に?」
「うん! 殿下と許嫁になったのは、親同士が勝手に決めただけ! 第2王子とだって、めちゃくちゃ不仲なんだから!」
私が必死に否定を続けたのが、功をなしたのだろう。
ようやく妹は、納得してくれたみたい。
こちらから視線を外すと、どこか悲しそうな表情であいつの身を案じた。
「……わたし、なんだか……。レオドール様がかわいそうに、なってきました……」
これさー。
マリンヌが今すぐ王太子から弟の方に乗り換えるか、いっそのこと逆ハーレムでも形成すれば、すべてが丸く収まるのでは……?
マリンヌは、2人から愛されてハッピー。
私も、誰に遠慮する必要もなくお1人様生活ができる。
双子の意思さえ無視してもいいなら、すべてが丸く収まる方法はこれしか考えられないかも!
「あ、あのさ。もし、よかったら……。なんだけど。あいつと、話してみたら?」
「アルベール様、ですか……?」
「違うよ。第2王子のほう。きっと、私よりも仲良くなれるんじゃないかな?」
「わたしが……。レオドール様と……」
思ってもみない提案を受けたと目を丸くしていた妹は、すぐさま胸元を押さえて、もじもじと視線をさまよわせる。
その後、こちらに向かって不安そうに問いかけた。
「……仲良く、なれるでしょうか……」
「うん。マリンヌは、私よりもずっとかわいいもん!」
私の後押しを受けた彼女のはにかんだ笑顔は、正しく国宝級! ちょっとメンタルが弱いのだけ玉に瑕だけど、こんな儚げ美少女を目の前にしたら、あいつだってイチコロでしょ!?
「興味があれば、殿下に頼んでみて。愛する人のお願いなら、きっと叶えてくれるはずだよ!」
「は、い……。ありがとうございます。お姉さま……」
よし。なんとかマリンヌを落ち着かせることに成功したっぽい。
あとはあいつが、私以上に妹を愛するよう、祈っておけばオッケー!
「それじゃあ、私は帰るね」
「おやすみなさい……」
「うん。ばいばい」
最後に妹の顔も見れたし、思い残すことはないや。
私は彼女に別れを告げ、部屋をあとにする。
――ああ、やっと落ち着けるよ……。
その後、扉を背にして深いため息をつく。
――はー。死ぬかと思った……。
あっちもこっちもお祭り騒ぎで、収集がつかなくなってるじゃん。
お父さんには、平民になるって言っちゃった。
後先考えずに大口を叩いた手前、もうここには帰って来られないかもなぁ……。
――とりあえずは住む場所が決まるまで、あそこで寝泊まりするかぁ……。
私はある空き部屋を思い浮かべると、再び転移魔術で移動をした。




