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アイテムリンカーは異世界人

「ありがとう……」

「おう! また来るわ!」


 恰幅のいい男性冒険者はニカっと笑うと手を挙げて店を後にする。

 カウンターには私でもアリスでもなく、なんとファリアが座っている。その手元には小さな飴の小袋が入った篭がひとつ。彼女の提案で購入してくれた冒険者に疲労回復効果のある飴を配っているんだ。


「お疲れ様ファリア。今日はあがってー」

「うん」

「ファリアの計算の早さは凄いですね。前から数字に関しては得意だったんですか?」

「うん。お客さんが多い時は早く計算してあげないといけないから。けど、こっちの大陸は小さな硬貨が多くて少し大変」

「うーん、やっぱりそうかな?」

「けれど、そのおかげで商品の価格に幅が出る。仕方なくまとめて買っていた人も数個で済むのは良い事」


 私がアスタルスに頼んで始めてもらった新しい硬貨制度は、金貨10枚で《中金貨》、100枚で《大金貨》という風に大きな金貨を纏める事が出来る様になっている。

 主に大口の取引で多く使われているらしく計算も簡単になっていいという反面、銅貨以下の物に《小銅貨》を追加したことで細かな計算が増えているというのが少し面倒という人も多い。

 けれど《小銅貨》のお陰で各お店で商品に違いが出せるという所もあって賛否両論となっている。この世界にレジのような物があればなぁと思うけど、果たしてホイールでさえ簡単に作れるものなのかという疑問もあるんだよなぁ。


「ファリア、身体はどう? 辛くない?」

「うん。1時間ずつだし、アリスが助けてくれるから」

「いえ、助かっているのはこちらですよ。彼女の計算の早さはお客さんが並んだ時にありがたく感じます」


 旧年祭の晩、籠瓜のスープを飲んだファリアは自分の今までの事を聞かせてくれた。それはとても過酷で信じられないくらい辛い話だった。

 アリスが話を聞いて涙ぐむとファリアは困った様な顔をして「でも自業自得だった」と付け加える。無理な商売をして自分から道を踏み外したのだから、という意味だったのかもしれないけれど、それにしたってご両親の事がなければもっと普通の生活を送れていただろう。

 パスティも真剣に話を聞いていたし、ウエイトレスのマリナもボロボロと泣きながら給仕をしていた。

 何ならお店中の人が聞き耳を立てて泣いていたような気がする……。


「そうだ、パスティさんも言ってたけど今度の休みに冒険者登録しにいこうか? 身分証代わりにもなるし」

「うん。そのつもり。少し街も回りたいし」

「じゃあそのついでにファリアの服も買いに行きましょう。お昼ご飯も外で食べてしまえば楽ですし」

「そうだね。あ、じゃあ朝一回ホイールさんの所に行ってくるよ。すぐ戻るから」

「わかりました」


 しかしファリアの回復の早さには驚いてしまう。ここにきて1週間ほどで今ではこうして店番として座る事が出来るようになっているのは少し異常だと思う。

 私が人のこと言えるのか! って言われるかもしれないけれど、私はほら、うん。ね?


「失礼するぞ」

「いらっしゃいませ」


 少し考え事をしていると店の扉が開かれる。そこには久しぶりに見る顔が店内を見渡し驚いたように立っていた。


「マスター・シリウス!?」

「久しぶりじゃなさくらよ。元気にしておったか?」

「元気元気ですよ! どうしたんですか急に?」

「うむ。丁度アンパルへと来たのでな、パスティに挨拶がてらお主にもと思ってのう」

「え、アンパルから来たの?」

「そうじゃが?」

「しれっと規格外なことするよね……」

「何、年の功じゃな。して、そちらが……」

「うん。うちの従業員のアリスと事情があって療養してるファリアだよ。ふたり共、この人が冒険者ギルドのマスター・シリウスです」

「え!? あのマスター・シリウス!? は、初めまして! アリス=ハルムストと申します!」

「ファリア、です」

「ほう、さくらが店長とは。ワシはシリウスと言う。よく、さくらを助けてくれているようじゃな。礼を言うぞ」

「いえ! あのこ、光栄です!」


 アリスは少し興奮したように背筋をピンと伸ばして返事をしている。冒険者からしたらマスター・シリウスってこんなに緊張するような相手なんだなぁと少しだけ考えを改める。

 私やパスティからするとおじいちゃんって感じがしてたんだけど、よく考えたら大陸最大のギルドのマスターなんだしアリスの態度も当たり前なのかな。

 ただファリアだけはキョトンとしたような顔で意味が分かっていないようだけど。


「そうじゃ、ここに来たのはもう一つ理由があっての。お主に伝える事があるんじゃ」

「伝える、事?」

「パスティにはもう既に話してあるが、一応ワシの口からお主に伝えた方がいいと思ってな」


 そう言うとマスター・シリウスはちらりとアリス達を見る。聞かれちゃまずい話なのかな?


「じゃあ奥でお茶でも飲みながら聞きましょうか」

「助かる」

「じゃあどうぞこちらへ。アリス、申し訳ないんだけどファリアともう少しだけ店番してて!」

「わかりました」


 私は手を振ると奥の休憩室の方へと向かう。


「ほ~……これがスキルとはなぁ。素晴らしいのう」

「便利でしょう? 今はアリスとファリアが住んでるんだ。前はもうひとりアークって言う人が住んでたんだけど……」

「聞いておるよ。アレクス王の事じゃろう?」

「あ、うん。今どこにいるかわからないけど、商人になるって旅に出たんだ」

「ならば朗報にもなるな」

「ん?」


 椅子に腰かけお茶を啜りながらマスター・シリウスはニヤリと笑う。


「実はな――」


 マスター・シリウスの話の内容は以下の通りだ。

 今から数日前、丁度《旧年祭》の行われた夜にある地域で大商人の屋敷が謎の爆発によって吹き飛ぶという事件が起きた。

 その屋敷に仕える執事が朝異変に気付き憲兵に通報した事で発覚。

 丁度その時マガリオッサ大陸の冒険者ギルドへ視察に来ていたマスター・シリウスはその現場へと出向いたらしい。

 現場は本当に跡形もなく、見た感じ痕跡らしい痕跡は何も残されていなかったらしい。けれどマスター・シリウスはその中から唯一何があったかの手がかりを見つける。


「それがこれじゃ」

「……箱?」

「その通り。しかもただの箱ではない。何重にも魔法による保護が掛けられている。そこまで形が変わってしまってもその効果が失われていない所を見ると伝説級かもしかすると神話級、アーティファクトという可能性もあるのう」

「これが、その……屋敷を吹き飛ばしたって事?」

「そうじゃろうな。内側から膨大な魔法がさく裂したような形状を見るにのう。まぁ確実な事は言えんが、少なくともワシは怪しいと睨んでおる」


 そう言われて何となく魔眼を起動させる。確かに、箱の内部には微妙に魔力が残されている。箱の破裂したような部分にはこびりついた様に魔力がべったりと癒着しているところを見るとマスター・シリウスのいう事が正しいのかも。


「そして、これはとある商人からもたらされた情報じゃが……」

「とある商人?」

「お主も良く知る人物じゃぞ。たまたまマリオールで船に乗る前に会ってな。貴重な情報が聞けたのだ」

「もしかして、アークの事なの?」

「ご名答」

「アーク! そっか、今はマガリオッサに……」

「そのアークがワシにとある情報をくれた。お主、以前遭遇した《古の幽鬼王(エルダーリッチ)》は覚えているな?」

「あぁ、あの杖を拾った時の」

「そうじゃ。あの杖を元の持ち主から購入していった人物がわかった」

「え? それって?」

「わかった、と言ってもその人物の特徴がわかったというだけなのだがな。なんでも各地で曰く付きのアイテムや装備を買い集めているらしい。そして、それを色々な所でばらまいておる」


 マスター・シリウスは紅茶の入ったカップの中をじっと見つめると口を開く。


「その者は自分の事を《アイテムリンカー》だと公言しておるらしい。小柄で黒髪、金の眼をした少女だそうじゃ」


 その言葉を聞いた瞬間、脳裏に何かの映像が浮かぶがすぐに消えてしまう。頭を押さえて俯いていると心配そうにマスター・シリウスが声を掛けてくる。


「大丈夫か?」

「うん……なんだろう、何か見えた気がしたんだけど……」

「……まぁまだ大きな事はわからんが少し気になる事があってな。それがお主とこうして1対1で話をしている理由じゃ」

「気になる事って?」

「《アイテムリンカー》を名乗る存在、それが果たして何者かはわからんが大きな手掛かりにはなるじゃろう。しかしそれとは別にお主に聞きたいことがある。――――さくら、お主は異世界からやってきたな?」

「……え?」

「ワシの知っておる《アイテムリンカー》の名は《タクマ》という。タクマ=ミドウ。お主ならこの名前の響きに覚えがあるのではないか?」


 そう言って私の眼を覗き込むマスター・シリウスの顔は何処か昔を懐かしむような何とも言えない切なさを感じさせた。

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