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謎の少女

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お時間ありましたら是非ご覧ください!

「また大事になったな……」


 風聞紙を読みながら海の向こうの生まれ故郷を想う。

 シュバリオンから旅立って2か月ほどだろうか、もうすぐ旧き年も終わり新たな年が始まる。どうやらこちらの大陸でもそれは変わらないみたいだと思っていた矢先、この風聞紙の内容だ。

 

「もはや関係ない事とはいえ……多少心配ではあるな。なぁアレックス」


 傍に佇む黒馬は軽く鼻を鳴らすと我知らずと言ったように空を見上げる。。

 俺は風聞紙を《次元鞄》へと仕舞うと手綱を引き歩き始めると特に抵抗することなく黒馬はその巨体を揺らし共に歩み始める。

 この黒馬はセイバーンへと立ち寄った際に余りの気性の粗さに処分されそうになっていたものを格安で購入した《早駆け馬》だ。

 本来買う予定は一切なかったが、とある仕事を引き受けロストホース商会の牧場へと出向いた際にたまたま出会い、その眼を見た時に視線に込められた「強い想い」に何故か心を引かれた。すぐに牧場主であるロストホース商会の会長に掛け合い手持ちの資金の半分を費やして引き取った。

 

「絶対に乗りこなせやしないよ! 殺される前に処分したほうがいい!」


 牧場を任された責任者の男は最後までそう言っていた。

 しかし俺はどうしてもこの馬と共に世界を見て回りたかった。いや、むしろ旅を共にする仲間が欲しかったのだろうか。

 黒馬は自ら柵を出ると俺の前で立ち止まる。やはり《早駆け馬》は元魔物だというだけあって普通の馬よりも圧倒的に知能が高く、そして気位も高い。いくら金を出したからと言ってすぐに主人だとは思えないのだろうな。

 

「お前の眼が気に入ったよ。わた――俺と一緒に旅をしてみないか?」

『フン』


 黒馬はそう短く鼻を鳴らすと頭を軽く下げる。

 俺は苦笑いをすると轡をその顔へと被せる。 

 それが俺とアレックスの初めての出会いだった。


「しかしマガリオッサの冬は厳しいな。ヒュマニオ大陸ではここまで寒くなかったように感じる」


 分厚い毛皮の上から腕をさすると寒さがより染み入る。こんなに冬の寒さに身を晒すのは若い時以来かと振り返る。

 王族として王城につめてからは常に外とは隔絶された世界だった。だからこそ今は自然の中のあらゆる物が懐かしく感じるのだが……。


「だがこの寒さは堪える……今日は早めに宿に入ろうアレックス」

『フン』


 短く鼻を鳴らすとその首を少し屈める。

 俺はその背へ飛び乗ると軽く腹を蹴る。軽やかな走り出しからどんどんと速度が上がり、あっという間に景色は後ろへと流れていく。

 主人の俺とは違ってアレックスはこの寒さの中でも素直に自分の心に従うのだなと少し羨ましくもなる。ふと先日故郷に送った手紙の事を思い出す。


『マガリオッサの商人連に一部に動きあり』


 あの手紙が私の娘の手助けになればと考えながら、加速する景色を眺め宿へと急ぐのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……ええと、誰?」

「それが、物音がして……ディスペンザーが呼ぶものですから見に行ってみたら……」


 私の目の前には布団の中で眠るひとりの少女がいる。

 赤い髪はボサボサで顔もやつれ肌も酷く汚れている。アリスの話では腕や足もまるで枝のように細くなっていたらしい。

 何故か異常なくらい身体が冷えていたためアリスがこうして温かい布団の中へと運んでくれたようだ。外は確かに寒いけれど凍えるほどじゃないと思うんだけどなぁ。


「扉から来たのかな?」

「ありえません。施錠状態の扉はダンジョンから完全に隔離されています。扉を叩かれればわかりますが開けることは不可能です。それはさくらが一番よく知ってるじゃないですか」

「うん……それじゃあ《聖女》みたいに空間を捻じ曲げてって事? そうとしか思えないよね?」

「……ありえない、と言いたいですね……」

「まぁ何にしても本人が起きないと何ともできないよね。けど、ここまで衰弱してたら眼が覚めるかどうか……点滴でもあったらいいんだけど……」

「点滴が何かはわかりませんが、どうせならポーションを飲ませてみますか? 例えばハイ・ポーションなんかは魔力を消費して基礎体力を上げる効果もあります。見た感じ魔力はそこまですり減ってないようですから」

「そっか。じゃあ少し飲んでもらおうかな。それに身体を拭いてあげないとね。かなり汚れてるし、本人も不快だろうし」


 私はそう言うとお湯を沸かしに台所へと向かう。アリスも頷くとポーションを取りに店へと向かっていった。

 お湯を沸かして新品のタオルを持って戻ると、既にポーションを飲ませ終えたのかアリスが傍に座っている。

 ふたりで少女の服を脱がせるとその身体を拭いていく。部屋の中はいつもより暖かくしているし問題はないだろう。

 けれど、本当に驚くほど細い。それに触るとまるで氷のように冷えているのがわかる。まるで雪の中にずっと倒れていたような感じだ。


「凄く痩せてるね」

「はい。浮浪者……と言うとあれですが、とてもまともな生活を送れていたとは思えません。もしかするとゴミ捨て場のような所に住んでいたのかもしれませんね」


 拭くたびに真っ黒になるタオルを取り換えながら入念に清めていく。黒く汚れていた肌は驚くほど白くなり、元がどれだけ整った顔立ちをしていたのかがよくわかる。こんな子がこんな状態になるような生活って、一体彼女の身に何があったんだろうか。まぁ、気軽に聞ける話じゃない事だけはわかるけどね。

 綺麗になった少女に自分用に買っていた新しい服を着せると今度は違うベッドへと寝かせる。最初に寝かせていた布団は汚れてしまったから後で洗っておかなきゃね。

 それから余りにも身体が冷えていたから《湯たんぽ》も使ってみる。これはホイールにこういうのがあると話をしたら保温効果に優れる鉱石を使って試作してくれた物で、その内に売りに出せるように弟子たちと試行錯誤しているらしい。

 本当に彼らドワフは何でも形にしてしまうし、ホイールのように人間に対して偏見を持たない人がいると色々と助かってしまうね。


「さて……あとは目が覚めるのを待つだけなんだけど……」

『ならば見張りは任せてもらおう』

「ディスペンザー、頼めるかな?」

『あぁ。ついでに偽装スキルもかけておく。何かあればすぐアリスに呼び掛けるとしよう』

「わかった。お願いディスペンザー」


 アリスは頷くとディスペンザーを部屋の入り口に立てかける。まぁ彼に任せておけば問題はないだろ。手足こそないけど状況を見てくれるだけでもありがたい。

 こういう時に不眠不休で働ける店員がいると本当に助かるなぁ。お礼にあとでよく手入れしてあげようかな。

 私は扉を開けるとアンパルへと戻る。さっきまで暖かい部屋の中に居たからなのか、そこまで寒くないはずのアンパルの空気でさえひんやりと冴えている。

 少し時間は遅いけどパスティに身元不明者を保護したことを伝えておかなきゃいけない。伝えておけば身元を調べてくれるかもしれないしね。

 しかし、どうやって店の中へ入ったんだろう?

 私が言うのもなんだけど、私のスキルは物凄く特殊だと思う。私に知識がないからというのもあるけど、どうやってダンジョンの中に確立した空間を作り出しているのかすらわからない。

 そこに突然現れたという事は間違いなく《聖女》のように空間そのものに干渉することができるのか、私と同種のスキルを持っているのか。

 もしかしてドラゴンみたいな《星幽生命体(アストラルボディ)》なのかもしれないと思ったけれど、よく考えればあんなに痩せ細るって事は栄養を必要としている訳だしそれも違うかな。そう考えるとますます彼女の存在がよくわからない事になるなぁ。


「取りあえずちゃんと目覚める様に看病しなきゃね。……無事に元気になるといいけど」


 そう言って見上げた夜空は空気が澄んでいるからか普段よりも星が良く視えた。

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