第三の大陸
「――という訳でして。我々5名がその洞窟の探索の任を与えられました」
「で、道中ここの扉を見つけて中に入ってみた、と」
「なんというか、こういう縁というのもあるんですね」
「えぇ。まさかロレッタ様のお話しくださった人族の助けというのがアリス様であったとは……我々からもお礼申し上げます」
獣人たちが頭を下げる。
アリスは少しだけ困った様に私へと視線を泳がせるけれど、私だってどうしていいか分からなくて苦笑いするしかない。
ただご飯を食べながら話をしていてある程度わかったことはある。
まずひとつは今のファルスオーク王国の体制。前王ガルシュムがロレッタ姫率いるガルシュム討伐部隊によって討たれ、ロレッタは王位継承権101位から大きく飛んでファルスオークを治める王となった。
勿論反発は大きかった。特に王位継承権の早い者ほどガルシュム王により近い考えの者が多く、ロレッタの言う「力以外の必要性」を否定するような者ばかりだった。しかしロレッタはそんな彼らを力によって完全に黙らせる。
力による統治を最も嫌いながら力により自分の存在を認めさせる、辛い決断だったのではないかとアリスは心配していた。
しかし「それこそが獣人族の王となる者の定め。寧ろこれから先の統治に口出しをさせないため必要な事です」とここにいる獣人族は好意的な意見だった。
そしてその戦いにアスタルス――シュバリオン王国が手を貸していたという事。とはいっても、戦後処理のための部隊と聖女ひとりしか遠征していないようだけど……。
どこまでも規格外な人だなとアリスとふたりあの笑顔を思い浮かべてしまう。多分たったひとり敵の城へ進軍したんだろうなと思うと少し背中が寒くなる。
「その上、ダンジョンまでねぇ」
最後は彼らがここにいる理由。今までアニメール大陸にはダンジョンが存在していなかったが、ロレッタがファルスオークを治めると同時期にダンジョンが発見されたらしい。それも今までは何の変哲もない食料を保存する洞窟だったらしい。
相変わらず新しいダンジョンが出現する理由はわからないけれど、これでファルスオークもダンジョンの恩恵が受けられると国民は大喜びなんだとか。
「ところでこのお店の事なのですが……」
「あぁ。ええと、治外法権という事で」
「ち、ちがい?」
「……えっとね、端的に言っちゃうと私のスキルはダンジョンに自動的に扉を繋げることが出来るんだ。その扉を通れば皆ここに繋がるんだよ」
「す、凄いスキルだ! そんなスキル聞いたこともありません!」
「けど私これ以外はスキル2個くらいしか持ってないけどね……」
「あっ……」
「あっ……て何よあっ……って! まぁ、でもそのおかげで商売は順調ですけどね」
「失礼しました。この扉はこのダンジョンに固定することができるのでしょうか?」
「ん? 出来るにはできるけど……」
「いえ、もしかするとロレッタ様とベリラダ様がお会いしたいとおっしゃるかと思いまして……」
「あぁなるほど! じゃあ暫くは固定しておくよ。事前に扉があるか確認に来てね?」
「はい! そうだ、よろしければ我が国にもおいでください。国内も王が変わった後だというのに驚くほど安定していますので……」
「それは凄いですね。普通は暫く荒れると思――いえ、よく考えればシュバリオンも殆ど混乱はありませんでしたね」
「多分アスタルス王が関わってるね。この手際の良さは」
そんな話をしながら気が付くと数時間が経っている。
今日は驚くほど人がこない。話をするならありがたいけれど、順調だといった手前それはそれで少し悔しいと言うか恥ずかしいと言うか。
「ではサクラ様、アリス様、我々はこの辺で」
「うん! ありがとうね色々と教えてくれて。女王様にもよろしく伝えてね」
「必ず! お土産まで頂いて……女王もお喜びになります!」
「あ、そういえばダンジョンのモンスターはどんな感じ? 大丈夫? ちゃんと帰れそう?」
「最初は驚きましたが、強さは山の獣とほとんど変わりません。ただこれ以上奥へ進むとどうかはわかりませんが……そこは今後、装備と人員を整えて挑みたいと考えています」
「そうだね、それがいいかな。うちにはポーションとかも売ってるから次は是非買いに来てね!」
獣人達は頭を下げるとダンジョンへと戻っていく。これからは人間やエルフ、ドワフだけじゃなく彼ら獣人のお客さんも増えていくのだろうか。
そうなるとお金の問題とかどうなるのかな? そういえば新硬貨ってどうなってるんだろう? この大陸にだって他に国があるわけだけど……よく考えたら私はこの大陸の国すら把握してないや。今度パスティに色々と教えてもらわないといけないなぁ。
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「――以上です」
「ありがとう。特に問題はなさそうですね」
「はい。獣人族の技術の習得も早く、この調子で行けばすぐに我々の良き隣人となってくれるでしょう」
「アスタルス様」
アニメール大陸の復興状況の報告を受けているとどこからともなく声を掛けられる。
「ベルディですか? どうしました?」
「お忙しいところ申し訳ありません。急ぎお耳に入れておきたいことが……」
私が目線で合図をすると先程まで報告をしていた大臣が頭を下げ部屋を出て行く。
するとまるで最初からそこに居たかのように黒い装束に身を包んだ少女が目の前に姿を現した。
「いやぁ、いつ見ても不思議な魔法ですね」
「術でございます、アスタルス様」
「あ、そうでしたね。ごめんなさい。――ところで報告というのは?」
ベルディは懐から一枚の手紙を取り出すとそれを差し出す。受け取り中に目を通すと、そこには見慣れぬ国の名と恐らくは王族の印であろう物が添えられている。
「これは……緑の大陸の……」
「はい、マガリオッサの《交易都市マリオール》を統治する領主からの手紙です。内容は端的に言うと赤の大陸と同様、本格的にマガリオッサも我々と友好を結びたい……という内容です。各国の王に同時に送られたようですが少し問題が」
「と、いうと?」
「どうやら最近こちらの国にマガリオッサから冒険者が多く入ってきているようなのですが、一部その中に何やらこそこそと嗅ぎまわる一団がいるとの事。恐らくは友好国として話を進めやすくするための密偵と思われます」
「そうですか。ですが、探られて痛い腹など持ち合わせては――いや、もしかすると赤の大陸の件を持ち出す気かな?」
「可能性はあります。ワタクシの調べた所によると既にマガリオッサの商人が多くファルスオークへと入っているようです」
「なら安心ですね。何せ《聖女》が相手でしたから」
「はい。寧ろ探っていただければこちらの力を示す切り札にもなります」
「あれだけ派手に暴れて死者を出さないのだから、本当に規格外だと思いますよ彼女は」
「確かに。……それではワタクシはこれで」
「ええ、ありがとうございます」
ベルディは現れた時と同じく一瞬で姿を消す。
確か彼女は魔法ではなく《術》だと言っていたけれどその詳細は不明だ。
ただ明らかに魔法とは違うのはなんとなく理解できていた。出来る事ならあのスキルも一度は味わってみたいものだけど……彼女には諜報を担ってもらっている以上はそれを申し出るのも申し訳がない。
味わってみたいと言えば、さくら商店の店主であるさくらの持つ《異空の指輪》だ。羨ましい事にルドルフは一度あの指輪の中に入ったという。私も、一度でいいからあの中へ入ってみたいものだなぁ。
「なぁんて……王となった今では気軽に外にも出られないし難しいかな」
そう独り言を呟くとくすりと笑う。最近ではこうしてひとりで笑ってしまう事が多くなってしまった。もしかして疲れているのかな?
今度ルドルフに頼んで1日休みを貰いたいな。勿論、今抱えている仕事が終わったら……だけれどね。




