冬毛のお客様一向
「どういうことですか!? 別荘を購入したなんて!!」
「あーいやぁ、それは違くて!」
「何がどう違うんですか! 確かにお金はさくらの物です! けれど今の私達に別荘が必要ですか!?」
「いやぁ……だからね、これは人助けって言うか……慈善事業っていうか……」
「人助けで50億リムですか!?」
「はい……ごめんなさい」
私が「別荘」を購入した3日後、アリスが里帰りから帰ってきた。
最初は溜まった仕事を消化するのに忙しくて伝える時間がなかったけれど、今日は暇だからそろそろ……と考えていたら、運が良いのか悪いのか、所有権の書類を持って《住宅ギルド》のホームがやってきてしまった。
その時に全てがバレてしまい、今こうして絶賛怒られている最中だという訳なんですが……。
「――それで、その人助けというのは?」
「うん、それがね――」
事の顛末をアリスに説明すると、彼女は大きなため息をつき頭を抱えてしまった。
いや、私も多分聞いたらそうなると思うんだけどね。
「しかし、そんな趣味――じゃなくて、奇病があるなんて……エルフはやはり不思議な存在ですね」
「だよね? まさか男の子が女の子になるなんてねぇ。逆はないらしいけど、それって運が悪いと一族滅びることになるんじゃ……って思うんだよ」
「そうですね。彼らにも難しい問題があるという事なんですね」
そんな世間話をしながらお昼ご飯の準備をする。
適当にお弁当を出しながらカウンターの上へと取り出していく。
「そういえばさくら、その別荘はこの先どうするんですか?」
「そうだねぇ。ダンジョン付き……とは言っても苔しかないダンジョンだからね。エルフに薬を卸すにしても稀な奇病ならそう簡単に売れないだろうし。……あぁ、あのハクサブルムの錬金術師さんと常連のふたりどうかな? 何か使い道が浮かぶんじゃない?」
「なるほど。常連のメルクさんとケリーさん。それと《清浄のポーション》を卸してくれているガーウェンさんですね」
「そうそう。メルクさんは私が作った《ハイ・ポーション》を簡単に再現してみせたし、ケリーさんは《エクスポーション》を作り出そうと研究している。ガーウェンさんは言わずもがな《清浄のポーション》を作ったという実績もあるし……きっと潤沢に素材があれば何か作ってくれそうな気がするんだよ」
「何気に有能な人材が揃ってますよね」
「ありがたい事だよね。そんな人達がウチに顔出してくれるなんて」
そんな話をしていると入り口のドアが開かれお客さんがやって来る。
「おい! 中に誰かいるぞ!? 何だ此処は!?」
「待て逸るな!! もし魔物が居たらどうす――」
「……あ、いらっしゃい」
「な!? 人族だとぉ!?」
「こんな場所に人族がいるはずないだろう! 魔物が化けて――」
「おや、獣人族、の方じゃないですか?」
「え? あのアニメール大陸の……ええとファルスオークだっけ?」
扉を開けた獣人族の男性がギョっとした顔をする。
後ろに控えていた数人も同じような反応だ。
「お、お前達! 何故我らの国の事を……!」
「ロレッタ様はお元気ですか?」
「ロ、ロレッタ様のことまで!? 一体何者なんだお前達は……」
「まぁ中に入ってよ。そこ開けっ放しにされると他のお客さんが来れないから」
「いや、我々は……」
「まぁいいからいいから。そこにいるアリスがどうやらそちらの国のお姫様とお友達みたいだよ? ――それとも、あなた達はお姫様の敵なのかな?」
「滅相もない! 我らはロレッタ姫――ロレッタ女王に救われた身! 仇なすなどありえない!」
「じゃあますますお客さんだねぇ。どうぞ入って入って」
そう言うと彼らはお互いに困ったように顔を見合わせ、仕方がなくといったようにひとり、またひとりと店内へと入ってくる。一歩一歩足元を確かめながら店の中を見渡す姿は警戒心十分といった感じだ。
しかし、それ以上に私は自分のテンションが上がるのを感じていた。
見れば見るほど狼の頭に人間の身体という何とも言えない野性味あふれる姿だなぁと。言われてみると確かに「獣人族」という種族名は的を射ている。
この世界に来てから人間やエルフ、ドワフなど色々な種族と仲良くなったけれど、ここまで大きく特徴の出ている種族は初めて出会う。これでこそファンタジー! って感じで内心凄く興奮してるんだよね!
「あ、あの、ロレッタ女王とは本当に……」
店内に入ってきた5名の獣人族の内のひとりがアリスへと質問する。
その声は「女王様のご友人だったらどうしよう」というような緊張感を強くはらんでいるように聞こえる。
「はい。ロレッタ様とベリラダさんとはハクサブルムでお会いして……少しお手伝いをさせていただきました」
「べ、ベリラダ様とも面識が!?」
「おぉ! 漆黒のベリラダ様とも……もしや名の知れた冒険者なのでは!?」
「是非! 詳しくお聞かせください!」
「うぉお~! ベリラダ親衛隊として気分が上がってきたぁああ!!」
なんだか凄いアイドルみたいに囲まれている。っていうかひとり凄い熱心なファンがいるし……。
アリスも少しだけ戸惑った顔をしているけど意外とまんざらでもない……のかな?
しかし、困ったことに5人全員が尻尾をブンブンと振るものだから室内に毛が舞って仕方がない。きっと犬を飼ってる人は毎日大変な思いをして掃除しているんだろうなぁと舞い散る毛を見ながら唖然とする。
「お、落ち着いて! ちょっと尻尾の動きを止めてよ! 毛が!」
「ぬお!? こ、これは申し訳ない……ご、ご迷惑を」
恐らく彼らの中のリーダーであろう右目に傷のある獣人が我に返り頭を下げる。つられたように他の4人も頭を下げると毛の飛散は収まった。
「やっぱり今はそっちの大陸も寒いの?」
「え、あぁはい。アニメールの冬は厳しく……この時期は我らも冬毛になりますので掃除が大変で……よ、よろしければ掃除道具などお借りできれば」
「気にしないで。どうせ今日は掃除の日だから。それより――よいしょっと。はい椅子だよ。座って座って」
「い、いや、我らは」
「良いからさ! お腹減ってない? 丁度お昼ご飯だったんだよねぇ。お、《丸出し屋の焼肉弁当》だ。お肉好きでしょう?」
「肉……」
ごくり、と唾を飲み込む音がする。
これはすぐに食いついてくるだろうなぁ。
「はいどーぞ! ご飯食べながら聞かせてよ! そっちの大陸の話をさ!」
そう言って差し出した焼肉弁当へ彼らの手が伸びるのにそう時間はかからなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『貪欲なものだ』
「うん……そうだね」
『こういう情報を吸収しようとする時のさくらはいつも通りに見えて随分と積極的だ。聞いていないような振りをしながら膨大な情報を蓄えようとしている』
「やっぱりそう見える?」
『あぁ』
こっそりと魔剣とアリスが会話をしている。
ふたりはもう慣れたものだが、獣人族からしてみれば餌でつられたような形になっているのだが、そこの所を彼らはどのように感じているのだろうか。
「けど、どうして獣人族がここに……確かロレッタはアニメールにダンジョンはないって言ってたよね?」
『確かにな。しかしさくらのスキルはダンジョン内かアンパルにしか繋がっていない。それに入ってきた際、魔物がどうこうと言っていた。もしかするとアニメールにダンジョンが出来たのではないか?』
「そんな事が……けど、そう考えないとおかしいよね。――ダンジョンって、一体何なんだろう」
『さて、な』
首を傾げても答えは出ない。そう結論付けるとアリスは昼食の為にカウンターの中へと入っていく。
ただ魔剣だけは、これから起こる事に不安を感じているのだった。
獣人族をメインストーリーに介入するのはまだ先にしようかと思いましたが、気が付くと既に書いてしまっていました。
多少前後しますが、3つ目の大陸の話を今後大きく取り扱っていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします!




