ダンジョン付きの家、買いませんか?
お店を開くという事は色々なお客さんが来るという事。それはわかっているけど、中にはこんな感じで「お客様」気質な人もやって来る。
「だから何度も言っているだろ、もう少し買取価格を上げろと! どうせ物珍しさだけで売れるんだぜ!? だったら少しは色を付けろよ!」
さっきからこうして1時間は粘るこの男性、どうやらどこかを拠点にしている冒険者で酒場でここの噂を聞いてやってきたらしい。
彼が持ち込んだのは民話級装備《頑強の剣》という、産出量は少ないのに固い以外に特性のないダンジョンドロップ。
よくMMOにも存在する「ドロップ数の少ないハズレ武器」……まぁハズレというのはあれだけど、固いだけなら鍛冶師でも簡単に作れてしまう微妙な武器なんだよね。それこそドワフ国のホイールさんの所の弟子でも簡単に作れてしまうらしい。
「そうはいっても、固いだけの武器ならいくらでもあるし……例えば斬れ味がいいとか、魔法を使えるとかそういう付加効果があれば物珍しいんですけどね」
「だが数は少ないだろう!?」
「数が少なければ希少っていうのは違うんじゃないですか? 数が少なくて強ければ希少、と言うならまだわかるけど……」
「だが壊れない武器を求めてる奴はいるはずだ!」
「だぁかぁらぁ! 頑丈なだけならもっと安く買えるんだって! 言葉通じないなぁ」
「な、何だお前その口の利き方は!」
「はいはい、いいからもう帰ってくださいよ……はっきり言って邪魔だよ! 買取もするし販売もするけどこうやってゴネる人は出入り禁止!」
「俺は客だぞ!?」
「私は店主だよ!」
殴り飛ばしたい気持ちをぐっと抑えながら取りあえず言葉で納得させようとするけど、私そういうの苦手なんだよね……大体はアリスかアークが相手をしてくれていたからなぁ。
あの二人は頭脳派、私は確実に脳筋だなぁと感じてしまう。あー面倒臭い面倒臭い。
「クッソ! 何だこの店は!」
「いや、他の店でも同じこと言われると思うよ……面倒くさい人なんだものアナタ」
「な!?」
「とにかくさぁ、買取もできないよそんな風にゴネられたら。……ねぇ、なんでそこまでしてお金欲しいの?」
「ど、どういう事だ!」
「売る気ないんでしょう?――そうやって相手を怒らせて、店の落ち度を指摘してお金取ってるんじゃない?」
「そんな事していない!」
「まぁ何となくだけど。そう思ったんだよね。……けれど、お金が欲しいのは事実でしょう?」
男は一瞬だけ顔を顰めたが、すぐに鼻で笑いふざけたような態度を取る。
「フン! そりゃ誰だって金が欲しいだろうよ!」
「ふーん……まぁそりゃそうか」
「……何だ、妙に物分かりがいいな」
「ま、買い取るわけじゃないけどね。事情があるならとも思ったけど、意地でも話す気がないなら仕方ないよ」
「チッ」
舌打ちをしながらも帰ろうとする気配は微塵も感じない。使いどころは問題だけど本当に強い精神力をしているなぁと感心する。
けど、そこまでしてお金が欲しい理由はなんだろう。病気の家族がいる? パーティの為? 遊ぶお金が欲しい? ……借金とか?
「……るんだよ」
「え、何?」
「だから! ダンジョンを買うのに金が要るんだよ!!」
「……ダンジョンを、買う~?」
「な、何だよ! クソどうして俺はお前にこんな話を……!」
恥ずかしそうに片手で顔を隠すと呆れた様に頭を振る。
それもそうだろう、ダンジョンは誰の物でもない。だからこそそんなダンジョンを買うなんて聞いたこともない話だ。
あ、いや……そういえば家の裏庭にダンジョンが出来てそこから一つの都市にまでなったって話を結構前に聞いたような気がするなぁ。
「ねぇ、それって人の土地にできたダンジョンを土地ごと買い取りたいって事なの?」
「……そうだよ。……昔、駆け出しの時に偶然手に入れた装備を巡ってパーティで殺し合いになったことがある。気が付いた時には俺以外は全員死んでた。その時の装備は冒険者ギルドに殺し合いの原因になったって事で取られちまったし、俺は誰も殺しちゃいないが殺し合いをしたパーティのメンバーだって言うんで誰も一緒に組んではくれなくなった。才能もない、ただ人より図太い神経してるってだけで他には何の取り柄もねぇ。数年して、冒険者なんざやめて盗賊にでもなってやろうかって時にひとりの初心者冒険者と知り合った。そいつは俺の噂を全部聞いて知っていながら俺を怖がることもなく……いつの間にか俺達はパーティを組んでいた。まぁエルフの冒険者はあの時期は珍しかったからな。そういう意味でも変な奴だったんだ」
装備品を巡っての対立、そういう話はこの世界に来てから何度も聞いたことがある。酷い時には彼のパーティのように殺し合いになってしまう事もあるんだとか。
けれど大体は酷い結末を迎える事になる。今まで例として聞いた話ではどのパーティも結局まともな冒険者には戻れず瓦解していった。一度欲望に憑りつかれたら滅びるしかないのかもしれない。
「そいつがな……病気になっちまった。まぁエルフ特有のものらしくてな……。何度もギルドに薬の材料を取りに行く依頼はしていた。けれどその量も段々と増えていく。依頼だけじゃ賄えない、かと言って買い続けるには莫大な金がかかる。そんなある日とあるダンジョンの話を聞いた。モンスターもいなくてただ苔だけが生えるダンジョンがあるってな」
「苔……魔力苔? もしかして《トロル大洞穴》の?」
「知っていたか……そうだ。最も魔力の溜まった部分を使って薬を作るんだ。その苔が群生するダンジョンがこの近くにある。そのダンジョンはたまたま農家の畑にできたもので家には年老いた爺さんが一人で住んでいる。が、その爺さんが街の息子の家へと越すのに処分したいらしい。だが苔自体は殆ど使い道もない物で、しかもモンスターもいないんじゃな。たいして人気もなく買い手がつかない。そうなると国がダンジョンを買い上げて管理することになるが、基本的にそういうダンジョンは立ち入りが禁止されてしまうんだ。……もう時間がない。だが、俺には金も……ない」
「そっか、ここには銀行とかないんだね……」
「ギン、コウ?」
「いや、こっちの話。それで、その薬ってどれくらい必要なの?」
「それが分かれば苦労しない! 他のエルフにも聞いてみたが稀な病気過ぎてわからん、と……。もう薬代だけで俺の蓄えは……ダンジョンにも潜ってるが足しにもならないし、何よりも物がないんだよ……」
うーん、思ったよりも深刻みたい。
確か《トロル大洞穴》は以前エリィやセレナと出会った所だ。彼女達もあの《苔》を集めていたからきっと彼が依頼を出した物なんだろうね。けど報酬に関してはそう多くはないって言ってたし、普通の冒険者にはあんまり見向きされないのかもしれないなぁ。
でもダンジョンを個人で買う、か。私はやろうと思えばどこにでも繋げられるしまぁやりたい放題の不法侵入者みたいなものだけど、それでも好きな階層を選べたりする訳じゃない。ダンジョン側からなら好きな場所に開けるんだけどね。
そう考えると彼の言う様に薬がすぐに取れる場所に家があってっていうのは理にかなってるかも。何より安心感が違うよね。
銀行、か。ううん、どんなシステムで運用されてるかわかんないけど、あれば便利だよねぇ。
「ええと、アナタの名前は?」
「……エイサンだ」
「エイサン、結局のところそのダンジョンいくらで売りに出てるの?」
「本当は150臆リムらしいんだが、買い手がつかないから50臆リムでいいと……だがそんな金、そう簡単には……」
「そのダンジョンを買ってさ、薬は誰が作るの?」
「そ、それなら相棒のエルフが……」
「へぇ珍しい病気なのに作る技術はあるんだ」
「あぁ、あいつの両親はエルフの里で薬師をしているそうだ。どんな薬も作り方だけは知っているらしい」
「うーん……50臆かぁ。確かに高いね」
「どうすりゃいいんだよ……どうすりゃ……」
苔のダンジョンか。何かに使い道があるかな、なんて考える。アリスが居たら怒られるかもしれないけれど、まぁ錬金術師のお客さんも何人か常連さんでいるし、必要になる事もあるかもしれない。
それに別荘? みたいな感じで購入しておけば休みの時にゆっくりできそうだしなぁ。
「わかったよ……じゃあそのダンジョン私が買うよ」
「なっ!? ほ、本当か!?」
「うん。だけど苔はちゃんと買ってね。安くはするからさ。それとその剣も買うからさ、そのお金で今まで迷惑かけた所にお金返してきなよ……」
「あ、あぁ! あぁ! そうする! そうするよ! ありがとう、ありがとう!」
我ながら甘いなぁと頭を抱えてしまう。でも先行投資だと思って、ね?
まったく、嬉しそうな顔しちゃってさぁ……。
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「では住宅ギルドが仲介としてこの家屋、土地、ダンジョンの権利をサクラ商店のサクラさんにお売りいたします。よろしいですか? ベッグジーさん」
「あぁ構わんよ。まぁしかし、売れるとは思わんかったのぉ。シュバリオン王国が5億で買うと言っておったが……お陰で10倍じゃ10倍! 助かったわい」
私の前には《住宅ギルド》のギルド職員であるホームとこの家の持ち主であるベッグジーが満面の笑みで座っている。
私は愛想笑いを浮かべると改めて家の中を見渡す。古い家だと聞いていたけどまだ全然綺麗だし庭も広い。件の畑もダンジョンへと降りる階段の周りを整地して色んな植物が植えられているし、ダンジョンへの道もちゃんと整備されている。確かに、ダンジョンという付加価値がなくてもそこそこの値段では売れただろうね。
「じゃあ病気が治るまでは私の代わりに彼らが住みますので。管理人、という事で」
「お主、よいパトロンを見つけたなぁ。金がないと聞いておったからな、少なくともお前さん以外の誰かの手に渡るだろうと考えていたが……しかし良かったな、これで相棒のエルフも救われるのう」
「あぁ、感謝しても、しきれないよ……」
「本当に、なんてお礼を言っていいか! ね、エイサン!」
「あぁ! そうだなエイミィ!」
エイサンと相棒のエルフであるエイミィは手を握り合って喜んでいる。その姿はどう見ても仲睦まじい恋人同士……なんだけど、なんだろう何と言うか凄い違和感がある。
「と、ところでさ……エイミィさん? は男の人、なんだね?」
「はい!」
「てっきり女性かと……いや、見た目は女性と言っても違和感がないけれど」
「助かったよサクラさん! 本当にありがとう! これでエイミィを……ずっと男のままにしてやれる!」
「――は?」
呆気に取られている私の前で二人は抱き合って喜んでいる。
「もう! 別に命を落とす訳じゃないから大丈夫っていったじゃないエイサンったら……」
「バカいうな! まさかエルフにそんな奇病が、女になる奇病が存在するなんて……! だが安心しろ! もうその心配もないんだからな!」
「は、恥ずかしいよ……! けど、嬉しい!」
唖然とした私はふとホームとベッグジーの方へと視線を向ける。ふたりとも私と目が合うと「ご存じなかったのですか?」といった顔をする。
抱き合っていちゃつくふたりを横目に頭を抱える。騙されたわけじゃない。元々私が話を聞かなかっただけ……けど、命を落とさないのにあんな悲壮な顔する!? こっちゃ命がかかってんのかと思って心配したんだよバカ!!
喜ぶふたりの姿を見て、私に商人って向いていないんじゃないだろうか……? そんな気持ちがふつふつと心の中に湧き上がってくるのだった。




