その頃さくら商店は何でもない一日を過ごしていました?
珍しく休日2回更新です。
短めで書いてますので新章のプロローグとでも考えて頂ければ!
どうぞよろしくお願いします!
「その剣を売ってもらいたい」
「ええと、職業をお聞きしても……?」
「私か? 私はリンブランド王国の貴族で武器コレクターをしているラグン=ホルスト=リーデマックという。その剣の販売条件に『大切にしてくれる方』と書かれている。少なくとも私なら適切な管理の元にその剣をより良く保存しておくことができる。どうだろう、条件は満たしていると思うが?」
少し神経質そうな顔をした男性は自信ありげにそう言ってのける。
いやまぁ条件は満たしてるよ。けれど私達が想定してるのはあくまで「ちゃんと剣として使ってくれる人」であってガラスケースの中で眺めてくれる人じゃないんだけど……。
しかし、見た目にも貴族と言った風貌の男性はそれでは納得しないだろう。私が念のために職業を聞いたのはその服装からも漂っている程の自己顕示欲の強さが視えたからだし。
赤、青、白に金。とても目を引く色を使った格好。どうしても派手過ぎていい印象を感じないのは私があんまり人と接してないからだと思うけど……。
「ごめんなさいラグンさん、持ち主の意向で武器として使っていただける方に売って欲しいという事なんですよ。確かに、大切にしてくれるのは前提条件ですが、それは見世物や観賞用としてという意味じゃないんです。剣としての使い方で、という事なんです」
ラグンは顎に手を当てると眉間に皺を寄せる。何やら考えているようだけど次の一手を考えているように見えるのは貴族という存在に対しての偏見なのかもしれない。
異世界転生物では貴族=悪という構図が良くあるのも原因なのかなぁ。どうにも苦手というかなんというか……でも今まで会ってきた貴族の人は嫌な人っていなかったような。
「……そうだな。確かにこの剣は観賞用というには無骨で質素だ。戦いという舞台でこそ最も美しく輝くと言っても過言ではない、か……」
「お……そ、そうですよね?」
「あぁ。店主の言う通りだ。すまんな、余りにも購入欲が勝って上からの物言いになってしまったようだ。許してくれ」
素直! 凄く素直な人だな! 余りにもあっさりと引き下がるものだから、一瞬裏があるんじゃないかと疑ってしまった。
「確かにコレクターとしてはこの剣を見過ごすことは非常に心苦しい。だが私が今まで集めてきたような装飾の煌びやかな物のように鑑賞も舞台のひとつだと言うならまだ話は分かるが、この剣は使う事に特化しすぎている。傷一つないのでてっきり観賞用に作られたものだと判断したが……よくよく見れば剣として幾多の戦場を渡り歩き多くの敵を沈めてきたような凄みがある。この剣をただ飾るだけで腐らせるのは惜しい」
「……ごめんなさいラグンさん。正直に言ってもっと欲しがるかなと思ってました」
「ん? はは、仕方がない。そんな物言いだったからな。それにさっきも言ったが惜しいさ。だが、コレクターとして最低限のマナーは守りたい。そうでなければただの成金趣味でしかないからな」
ごめんなさい!
そう大声で謝りたい。
人を見た目で判断しちゃいけない! って思うんだけど、先行するイメージがどうしても邪魔をしてしまう。申し訳ない気持ちでいっぱいです……。
「成程……じゃ、じゃあお詫びと言ってはなんですけど、珍しい剣で売り主がそういう用途に使っても良いっていうものがあったら連絡しますよ。それでいかがですか?」
「お、おお! いいのか!? こんな趣味だと何故か店からは敬遠されるんだが……いや、そうしてもらえるなら助かる!」
凄く食いつく!
まぁ私の元居た世界でもコレクターは何故かいい顔をされないことが多かったよね。ただ好きな物を集めているだけなのに家族からは「邪魔」だとか「ゴミばっかり集めて」なんて言われている話はテレビやインターネットでもよく見ていた。
挙句は父親が集めたプラモデルやモデルガンを勝手に売りさばいたり捨てる企画の番組が放送されたり……あれを見た時は頭おかしいんじゃないかと思ったけど。
結局はモラルやルール、マナーの問題なんだと思うんだけど、過干渉してくる相手にはそういう部分が欠如していることが多い。
「すまない、少し興奮してしまった。……子供のような話で申し訳ないが、私は剣の展覧館を作りたいんだ。多くの歴史ある剣や技術の粋を結集して作られた剣、そう言う物が存在するという事をもっと知って欲しい。今はダンジョン産の武器ばかりが有名になっているが、名匠の手による作品は引けを取らない美しさを持っているんだぞとアピールしたいのだ」
「いいですねぇ。説明札なんかついてたら皆読んで楽しんでくれそう」
「わかってくれるかね!? 君は女性なのに珍しい……!」
「そういえば、その格好もその一環ですか? 宣伝、的な」
「あぁいや、これは趣味だ」
「あ、そう、ですか……」
そうかぁ趣味かぁ。妙に色の多い服だとは思ってたけど……そういう趣向だったのか。危うく地雷を踏んでしまう所だったなぁ。
「また機会があれば寄らせてもらう。その時には素晴らしい剣に出会えると期待しているよ」
「わかりました。私も良い物が入ったらお知らせしに行きますよ」
「それはありがたい! 街の衛兵に尋ねてもらえばすぐわかるからよろしく頼む。その時は最高のもてなしを約束しよう」
「期待してます」
「ではな」
ラグンは片手をあげると去っていく。今日はどこのダンジョンに繋がったのか見てなかったけど、どうやらリンブランド王国の中にあるダンジョンに繋がったみたいだ。
リンブランド王国、聞いたことないけれどこの大陸のどこかにあるんだろうか? こんな時アリスが居てくれれば教えてくれるんだけど……残念ながら彼女は実家に帰省中なんだよね。
取りあえず仕事が終わったらアンパルで色々と情報を集めてみよう。もしかしたら案外早く訪ねる事になるかもしれないし。
「さって……あとちょっとかなぁ」
固まった身体を解そうとカウンターで背伸びをしたその瞬間、視界に妙なノイズが走る。
眩暈のようなそれは頭の中に直接映像を映しだす。
赤い大地、どこまでも広がる荒れ果てた地、山の麓の洞窟に魔力の吹き溜まりが視える。その魔力が山の奥へ奥へと進み洞窟を長く長く拡張していく。
そこで急に映像が途絶える。
「――はっ!? な、なんだろ今の……」
頭を振り強く目を閉じる。
気分の悪さや痛みなんかは感じないけれど、あの映像がずっと頭の中をぐるぐると回るような錯覚を覚える。
あれは一体何だったのだろう? なんというかとても感じた事のあるような気配だったけれど、詳しい事は何一つわからない。今まで感じたことのない感覚だったし……。
一抹の不安を感じた私は少し早めの店じまいをしながら考えを巡らすのだった。




