番外編:元冒険者アリスと獣の国の姫 その②
おはようございます。
先日の台風で実家が床下浸水しまして、少し……というか全然書く時間が取れませんでした……!
皆さま、影響ありませんでしたか?
天気はいいのですぐに乾くとは思いますが、それ以上に身体はもう疲れてクタクタです。
更新頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!
獣人の国。それはつい10年ほど前までは本当に存在するのかわからない噂話のようなものだった。
しかし獣人というその存在の証拠は古い文献にはしっかりと残されているのに、その姿のみがある日を境に綺麗さっぱりと消えてしまったのだ。
曰く獣人族は獣の特徴を持ち、強靭な肉体と人間並みの知恵で傭兵として名を上げてきた武闘派種族だったが、約200年前を最後に徐々に数を減らし最終的にはこの大陸から完全に消えてしまった。
「ですが10年前、我々は再度この大陸へと赴き、人と今一度手を取り合う道を選択しました」
「ですが、何故今になって? 10年前なので今、というのもおかしな話ではありますが……この大陸から姿を消してあちらの大陸で暮らしていたのなら、わざわざ海を渡り干渉する意図がわかりません」
「その通りです。ですがそれには色々と複雑な問題が関わってきます。とはいっても、簡潔に申し上げるなら我々獣人があちらの大陸を平定してしまったからです」
「……平定してしまった?」
「はい。こちら――人が治める青の大陸と我々のいる遠く離れた赤の大陸、そして青の大陸とほど近く親交の深い緑の大陸。我々は種族のこれからの為に海を渡り各大陸にある国と友好関係を結ぶべく訪れたのです」
ベリラダは視線を窓の外へと移すと興味深そうに眺めている。
「我々は戦いを生業にして暮らしてきました。人よりも力に秀でたこの身体を生かすにはそれが最善の策だと自負していましたし需要もありましたから。そしてある日、赤の大陸にて当時の最大勢力である黒獅子族が大陸制覇に乗り出し赤の大陸は大戦乱時代へと突入しました。熾烈な戦いは50年にも及び、ようやく我々が大陸を平定した時には少数存在していた人族も黒獅子族も、そして鱗族もその姿を消していました。生き残ったのは我々一部の獣人族のみだったのです。」
200年前に姿を消したのは、自分たちの種族を守るため他の大陸へ渡る暇がなかったという事らしい。
「疲弊しきった我々には大陸から出る力も残されていませんでした。安定し、世代が移り変わる頃、仲間たちは大陸を平定し国としての力をある程度までは取り戻してはいましたが……戦争によって富を得てきた我々は争いのない世界では暮らしていけないという事を強く感じていました。そこで長い話し合いの結果、戦いで培った技術を売り他大陸の技術を取り入れることで戦争をしなくても生きていける道を探し始めたのです」
「そういう事情が……」
確かに、伝え聞く獣人の話はどれも鮮烈な物が多い。
たったの数騎で砦を落とした話や100人程の手勢で2000人の兵をあしらったという話もある。故に人の中には彼らを恐れ忌避する人々も存在する。
私は馬車の外を見ると、周りを走る兵士達の顔を見る。
誰も彼も面倒くさい、早く帰りたいと言ったやる気のない顔をしている。あくまで任務だから、仕事だからベリラダやロレッタの警護をしているだけに過ぎないのだろう。
もしかしたら彼らの中には獣人に良い感情を持たない人もいるのかもしれない。
「事情はわかりましたが……何故王族であるベリラダさんとロレッタさんがここにいるのですか?」
「それは……」
「これは本来お伝えするべき事ではありませんが、ハクサブルムにてシュバリオンの新しき王、アスタルス様とお会いする段取りとなっているのです」
「そ、その合間に近くにダンジョンがあると聞いたので……ア、アタシがベリラダ様にお願いして観に行きたいと我儘を……」
「私とロレッタは幼い頃より共に育った姉妹のような関係なのです。年も同じですし、身分こそ違えど彼女は誰よりも大切な親友でもあります」
「ベリラダ様ぁ……」
「ロレッタ、また耳が」
「はうぅ!」
どうやらロレッタは耳を隠すのが苦手なようだ。ベリラダは見た感じでは普通の人と変わりはないように思うけれど、ロレッタは先程から何かに興味を示すたびに耳がぴょこぴょこと飛び出している。
「ダンジョンが珍しいのですか?」
「はい! アニメール大陸にはダンジョンが存在しませんから! 初めて見ました!」
目を輝かせながら力説するロレッタは、とてもベリラダと同い年だとは思えない程幼く見える。
しかし、そんな彼女も並みの大人でも敵わない程の戦闘力を秘めているかと思うと、獣人族が争い以外の道を見出したことは口で説明するよりもずっとずっと大変な事だっただろう。
自分達の培ってきた能力を捨ててでも生きる道を選択するのは本当に苦渋の決断じゃないだろうか?
私も元冒険者だから少しだけわかる部分はあるけれど、それでも真の意味では彼女達を理解することはできない。それが種族の壁なのか私の理解力の限界なのかはわからないけれど。
「ではこの後、アスタルス様とお会いするんですね」
「そうなのですが……アスタルス様はとても恐ろしい方だと聞き及んでおります。父親から王の座を奪い、兄弟達を処刑したと……。本当にそのような苛烈な方なのだとしたら、我々獣人族の話など聞いてくださるかどうか……」
「大丈夫ですよ。アスタルス様はそんな人ではありません。詳しくは言えませんが、実際にあってお話してみてください。きっとベリラダ様のお話を聞いてくださる筈ですよ」
「……あの、失礼でなければアタシ達の護衛を請け負ってはいただけませんか?」
「え?」
「ロレッタ!」
「はぅ!? で、でも、今のお話を聞くとアスタルス王の事をアタシ達よりもご存知のようですし! 冒険者、とご自身でおっしゃられていましたよね!? 冒険者が護衛を務めることは珍しくないと聞きました! それに、お城の兵士の方達はアタシ達にあまりいい印象は持たれていないようですし……」
「そういえば、何故シュバリオンの騎士団と行動を? 他のお付きの方々はおられないのですか?」
「……私は名の示す通りファルスオークの王族ではありますが、王位継承権は上から101人目です。ですので、王からすれば替えのきく交渉役なのでしょう。実際、護衛をつけられるほど潤沢な資金も人員もないのですが」
「そうですか……」
「どうかお願いします! あなたを冒険者と見込んで!」
ロレッタは涙目で頭を下げる。
彼女からすれば親友であるベリラダが護衛をつけてもらえず見知らぬ土地へと送り出されたことが不安だったのだろう。まるで藁にも縋るように、耳をしゅんとタレさせて懇願している。
この姿を見て断れる人が果たしているのだろうか? もし断ったら異常な罪悪感で押しつぶされたりはしないだろうか?
「……わかりました。そこまで実力があるわけではありませんが、同席させていただきます」
「よろしいのですか? 私達とは関係のないあなたにそんな重荷を……」
「大丈夫です。アスタルス様とは少しだけですが面識もありますので」
「まぁ、シュバリオンの王と?」
「凄いです……!」
「正確には私の雇い主が、ですが。何にしても無下にされることはないと思います」
「あぁ、この出会いに感謝を……」
「本当ですね! 嬉しいですね!」
ふたりは手を取り合って喜んでいる。
やはり不安だったのだろう。伝え聞くアスタルスの噂話は相当に悪い印象を与えているようだし無理もない。
まぁ街まで送ってもらう馬車代位は働いて返さなければいけないだろうし悪い提案ではないと感じる。
きっとさくらもそうしたはずだから。




